今日も一日中、ペン入れだった。
チーフ広井がそんなに量はないと言ってたが、とんでもない。
一本まるごと全ページ、全コマにわしがペン入れしなければ
ならない章があって、今日はこの一本しか進まなかった。
いや、この一本もまだ終わってない。
毎日毎日、来週もペン入れを続けるしかないようだ。
描き下ろしで単行本を出すということは、原稿料は入って来ない。
先行投資でスタッフに給料を払い続けるのである。
長引けば長引くほど、投資額が嵩んできて、発売されても
売れなければ赤字が出る。
小説家ならば自分一人だから1年がかりで執筆しても大した
費用はかからないだろうが、漫画家はスタッフを雇っている
から莫大な費用になる。
単行本を描き下ろしで出すということは、大博打である。
だからこそ、もう描きたいものしか描きたくない。
売れそうなものを嗅ぎまわって描いて、それで大して売れな
かったら後悔しか残らない。
描きたいものを描くからペン入れの忍耐が続くのだ。
しかもこの歳になったら、後世に残せる作品を描きたい。
それは単に今現在、人々の暇つぶしになる作品ではなく、
わし以外の誰にも描けない作品でなければならない。
ちょっと、ごーまんかますが、『戦争論』や『天皇論』は、
わしが死んでも残るのではないかと思っている。