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高森明勅
2013.7.12 10:30

原発を巡るトリック話法

昨年の衆院選の大きな争点の1つは、原発だった。

自民党以外の各党は、多少の温度差はあったが、
揃って脱原発の方向性を打ち出した。

自民党は一方で、
「原子力に依存しなくても良い経済・社会構造の確立を目指します」
と脱原発的なポーズを取りながら、
もう一方では
「10年以内には将来にわたって持続可能な
『電源構成のベストミックス』を確立します」と、
曖昧な公約を掲げていた。
選挙結果は、脱原発を明確に掲げた政党の得票数が、
自民党を大きく上回った。

しかし、小選挙区制下で小党が乱立したので、
死票がおびただしく出て議席獲得に繋がらず、
自民党の大勝に終わった。

しかし、民意ははっきり脱原発を求めていることが示された。

近頃、ジャーナリストの池上彰氏が原発政策を巡って、
安倍首相にこう尋ねている。

「今年5月には『原発再稼働を出来る限り早く実現したい』と語り、
中東への外遊では原発をセールスされています。
原発推進に大きく舵を切ったと考えてよろしいですか」と。

これに対する安倍首相の答えは、こんなものだった。

「政権公約にあるエネルギーのベストミックスのなかにはもちろん
原発も選択肢に入っており、基本的な姿勢は昨年の衆院選と
変わっておりません。
政府は経済を成長させるために低廉で安定的なエネルギーを
供給する責任を負っています」と(『文藝春秋』8月号)。

今になっても平然と、原発を「低廉」とか「安定的」
と語る心臓の強さには、恐れ入る。

原発がもし「安定的」なら、現在、国内の原発が軒並み、
稼働を停止しているのは何故なのか?

我々は原発がいかに不安定かを今、
目の前に見ている最中ではないのか。

国民はそんなことすら気づかないと、高を括っているのだろうか。

それはともかく、安倍首相は昨年の衆院選の時から
「原発推進」で、「基本的な姿勢は…変わっておりません」と
断言しているのだ。

こう言われて、面食らった人も少なくないだろう。

昨年の衆院選の自民党公約に「ベストミックスを確立します」と
あっても、それが「もちろん原発も選択肢に入って」いるとは、
はっきり意識していなし、ましてや一方で、
「原子力に依存しなくても良い経済・社会構造の確立を目指します」
と明言していたので、
ますます「もちろん原発も選択肢」とは思わなかったはずだ。

しかし、あれは典型的なトリック話法だった。

「もちろん原発も選択肢」の「ベストミックス」の方は、
「確立します」と断定していた。

ところが「原子力に依存しなくても良い」方は、
「確立を目指します」だった。

つまり自民党的、安倍首相的な話法では、
あくまでも「目指します」と約束したのであって、
「確立します」とは一切、約束していない。

つまり、はなっから「確立」する気なんてない、
と(裏声で)言っていたのだ。

更にもう1つ、トリックがあった。

それは「依存」という言葉。

この言葉は、国内で原発がじゃんじゃん稼働していても、
いや我々の「経済・社会構造」は決して原発に「依存」はしていない、
ただ「共存」しているだけだ等、
いくらでも言い逃れが出来る表現なのだ。

かつて、「消防署“の方”から来ました」と言って、
消火器を売り付ける詐欺が流行ったことがある。

だが政権を「取り戻し」、“ねじれ”を解消する為には、
それとは比較にならない、
高度かつ卑劣な“洗練された”トリック話法が必要、ということらしい。

国民は参院選に際しても、くれぐれも警戒を怠ってはならない。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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