ゴー宣DOJO

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切通理作
2013.3.23 12:21

体罰と「取調べの可視化」


 当ゴー宣ネット道場ブログで師範泉美木蘭さんが、今度の道場の体罰テーマに併せて、戸塚ヨットスクールの例を出されてました。

 僕は90年代、戸塚ヨットスクール校長・戸塚宏さんに取材したことがあります。

 戸塚さんは取材者にはにこやかで、利発的に話す人で、粗暴な印象は全くありません。

 

 70年代後半、最初に体罰死の事件が起きた時は、暴力教師の巣窟のように言われた戸塚ヨットスクールでしたが、僕が会いに行った90年代には戸塚さんもメディアに論客として露出し、世間にとってはやや「無害化」した印象がありました。

 

 戸塚校長自身、当時はもう「体罰」はしていないと言ってました。

 

 しかし実際には、木蘭さんも指摘するように、その後も訓練生の死亡は起きています。

 

 以前ゴー宣ネット道場の動画番組『せつないかもしれない』に、現役の「ひきこもり」であり、高校時代以来、ひきこもり歴20年の勝山実さんにゲストに来て頂きましたが、勝山さんは戸塚ヨットスクールのことを、「僕らにとってはアウシュビッツです」と語っていました。

 

 学校にすら行けない、発達に障害のあるかもしれない我が子を親が見放し、いきなり殴る蹴るの暴行を振るう施設に放り込む。

 その落差は、たしかにユダヤ人にとってのアウシュビッツに匹敵するのかもしれません。

 

 僕は戸塚ヨット事件の最初の頃は中学生であり、やはりおそろしい場所だと思っていましたが、長ずるにつれ、その存在をなんとなく容認するようになっていたのでした。

 

 しかし一見世の中からは無害化しているように感じられても、放り込まれるかもしれない当事者にとっては「あそこにアウシュビッツがある」と認識される場所であり続けているのかもしれません。

 

 僕は大人になって、一評論家になってしまって、かつてのような恐怖心を失ってしまったのでしょうか。

 

 いま高森明勅先生と、ゴー宣ネット道場の有料動画『誰も見たくない?時事楽論』で、「PC遠隔操作事件から見えるもの」について話しています。実際に警察から取り調べを受けたことがある高森先生のリアルな実体験にもとづいた意見が聞けます。
  http://www.nicovideo.jp/watch/1363407731

 

 ここで焦点のひとつとなっている「警察の取り調べの可視化は是が非か」という問題ですが、僕にはこれが「体罰是が非か」という問題と根底では重なっているところもある気がしてしょうがないのです。

 

 パソコンを使っているというだけで、ある日突然逮捕され、取調室という密室で第三者も立ち合わないところで執拗な尋問を受け、この事件では既に4人もの人間が無実なのにもかかわらず逮捕され、うち2人が「自白」してしまっています。

 

 取り調べられる側としては、これは恐怖以外の何物でもないでしょう。

 いま「真犯人」として逮捕されている青年の弁護士が、取調べの録音・録画を求めているのもむべなるかなと思います。

 

 しかし、警察が「取り調べの可視化」を頑なに拒絶するのも、わからなくもないのです。

 

 多くの犯罪は、実は自白によって立件が成り立っているのではないでしょうか。

 自供があって、その文脈をもとに間接証拠が位置付けられれば、それは一気に信憑性を帯びます。

 

 捜査にとって「自白させる」ということは、ことのほか大きい。なにせ、犯行が映像に記録されているなどという決定的な直接証拠が揃うというのは、実際にはなかなか難しいでしょうから。

 

 そしてその「取り調べ」は、訊く側と答える側の、ある種特殊な関係性が濃厚に出来あがらなければ、成立しないのではないでしょうか。

 

 認めたら一生損になることを「喋ってもいい」と思わせるわけですから。

 

 閉じられた、お互いだけがいる時間を作り、ある種の共依存(自分と特定の相手がその関係性に寄りかかり、関係に囚われている状態)が成立しなければならないことは想像に難くありません。

 

 そうでなければ、取り調べはただ「はい」「いいえ」と形式上事実認定するだけの手続き以上のものにならないでしょう。

 

 一歩踏み込んで、(心理的に)相手の首根っこを掴み、ぐいと引き寄せるぐらいには迫力ある取り調べでなくては、日本の治安は不安だと思うのは私だけでしょうか。

 

 もちろん、それは本質論であって、実際に殴る蹴るの暴行がいまの時代の取り調べで横行しているということではありません。

 

 たとえば、PC遠隔操作事件で用いられたといわれる、容疑者の両親から「親子の縁を切る」という念書を取り、それを本人に突きつけるという方法。

 

  「時事楽論」で高森先生は、そのようなおかしいことは禁止すればよく、取り調べの可視化とは別問題だとおっしゃっていましたが、私はこのやり方すら、警察にとって長年の経験によって培われた手法であり、例外的異常事態とすませることではないのではないかと思うのです。

 

 高森先生は先日の当ブログで、昔自分を教えた先生は体罰にも愛があったし、その愛を子ども達も共有していたと述べられました。

 

 昔の生徒たちは、先生の鉄拳をなぜ「愛」だと信じ、従ったのか。その先生自体にそう感じさせるだけものがあったのは事実でしょうが、もうひとつ、昔の子どもたちはいまほど違う選択肢の意識もなく、情報もなく、よほどのことがない限り自分のいまある環境の選び直しが出来るとは考えてもいない……ということがあるのではないでしょうか。

 

 体罰を加えたのが先生ならば、それはまさに有無を言わさず「教育」そのものであるし、「愛」そのものであった。

 

 いまは情報を遮断し、親など他のものに頼る道筋を断って、同じ空間に居る自分達だけの関係性に絞り込まないと、「自白」させることなど出来ないし、またそのような空間を失ってしまったら、何か不安な気がするのは私だけでしょうか。

 

 しかしこれも、自分は安全圏に居る評論家的意見でしょうか。

 

 戸塚ヨットスクールはなぜなくならないのか、なぜ体罰を手放せないのか。

 

 そんなことも考えながら、次回道場に臨みたいと思います。

第35回ゴー宣道場

「体罰って何だろう?」

平成25年4月14日(日)午後1時 から
『人事労務会館』 にて開催します。




「人事労務会館」
(住所:東京都品川区大崎2-4-3 )は、
JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン・りんかい線
『大崎駅』
北改札口 を出て左へ、
「西口」 側の左階段を降りて、徒歩3分です。

毎回、会場の場所が分からず迷われる方が、多くいらっしゃいます。

人事労務会館のHPにて、場所をよくご確認の上、ご来場下さい絵文字:重要
(HP掲載の、駅から会場までの地図を印刷し、持参されることをオススメします )

詳しくは、 “ こちら ” でどうぞ。

HP上の申し込みフォームからも申し込み可能です絵文字:重要絵文字:パソコン

上 ↑ のHPメニュー「道場参加申し込み」もしくは下 ↓ の申し込みフォームバナー(画像)
クリックして、申し込みページにお進み下さい絵文字:よろしくお願いします
入力必須項目にご記入の上、お申し込み下さい絵文字:重要絵文字:メール

お申し込み後、記入されたメールアドレス宛に「申し込み確認メール」が届きますので、
ご記入内容に間違いがないか、よくご確認下さい。

申し込み〆切後、当選された方にのみ「当選メール」を送らせて頂きます。
当選された方は、道場当日、
その「当選メール」をプリントアウトの上、会場までご持参下さい。



 
道場参加申し込みフォーム



引き続き、往復ハガキでの応募も受付けております絵文字:重要絵文字:記念日


入場料は、お一人1000円です。

参加ご希望の方は、

往復はがき に、『第35回参加希望』
と明記、

さらに、

住所

1. 氏名(同伴者がいる場合はその方の氏名と続柄・関係など)
2.住所
3.
電話番号
4. 年齢

5.
職業(学生の方は学校名)
6.
募集を知った媒体
7.
応募の理由と道場への期待

返信はがきの宛名には、ご自分の氏名・住所をご記入の上、

152-8799

東京都目黒区目黒本町1-15-16 目黒郵便局・局留め

『ゴー宣道場』代表・小林よしのり、担当・岸端


まで、お送り下さい。

応募〆切平成25年4/3(水)必着です。


当選された方にのみ
当選通知を送らせて頂きます絵文字:記念日
(往復ハガキで応募された方は返信ハガキで、ネットから応募された方は
 当選メールでの通知となります。)

当選通知の送付は、応募〆切後になりますので、しばらくお待ち下さい絵文字:よろしくお願いします

皆様からの多数のご応募、お待ちしております絵文字:重要絵文字:晴れ

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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