ゴー宣DOJO

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切通理作
2012.3.29 01:12

「憶測」は言ってはいけない?

発売中の「WiLL」5月号における

小林よしのり代表師範の記事『放射能「健康デマ」を嗤う』は、

放射能無害論を唱える向きにどう答えていったらいいかという

ことの、非常にわかりやすいガイドとなっています。

 

現段階で判断基準となる数字も挙げながら、

放射能を正しく怖がるために、

出来ることをしていくのは重要だと思います。

この文章はそのよすがになるでしょう。

 

放射能は無害どころか健康にいいと言って憚らない

ホルミシス派は学会でも主流ではなく異端であり、

そのような異端説に注目して想像をたくましくするのは

漫画家がフィクションを作る時によくすることだ……

と小林さんは書き、自分のような漫画家が逆に

常識を説かねばならないおかしさを指摘しています。

 

しかしそこは小林さん、データばかりではなく、

一目でわかるホルミシス派教祖のトンデモさを、

ズバリ指摘しています。

 

『放射能を怖がるな!』という本の表紙に掲載されている著者T.D.ラッキー教授の写真について、小林さんはこう書いているのです。

 

「この珍妙な出で立ち! 丸首の肌着丸見えで、紋付の羽織の上に帯を巻き、腹のところに刀を逆向きに差して鞘を握っているという、気がふれているとしか思えない格好の老白人」

 

 先月のゴー宣道場においても、小林さんがこの本の表紙を掲げて上記のような話をした時、会場はおおおと湧きました。その瞬間、話の理解が飛躍的に進んだと記憶しています。

 ですが、今回の「WiLL」には、文章では表紙の教授の珍妙さを書いているのに、書影は載っていません。

これは、不思議だと思いました。

 

後に小林さんがこちらのブログで、編集部に載せるよう指示したのに載らなかったと書かれていましたが、そういう事情を何も知らなくても、普通に「なんで載ってないんだろう」と思いました。

 

小林さんも多忙で漫画としては今回描けないのなら、その範囲で、少しでもビジュアル要素を使ってアクセントをつけようと指示されたに違いありません。

 

そのツボをあえて外すのは、不思議だと思います。

 

 そしてその不思議さに対して、よしりん企画の時浦さんが、

 

「一目でこれがトンデモ本と

 ばれたら都合が悪いのか、

 WiLLは?」

 

 ……と憶測を与えたのは、

 そんなにおかしいことでしょうか。

 

 正直、僕も時浦さんと同じことを思いましたよ。

 

 僕の場合、雑誌全体の論調に対しての意見はあっても、特に個人的な感情面で

「WiLL」に対してなにか含みがあるということはまったくありません。

 ただの読者です。

 

 むしろ個人としては、道場の時に休憩時間などでお会いする編集長や編集部の方には親しみの感情すら持っています。嫌い合っているということも憎み合っているということもたぶんないでしょう。

 

 しかしそれでも、普通に疑問に思いました。

 

 「前夜」のコラムで浅羽通明さんが、人の考えは、何を言っているかではなく、何を言わないかに注目すべきだというリテラシー論を書かれていましたが、今回のことも「なんで写真が載ってないか」について憶測するのは、必要なことでありこそすれ、禁じるべきではないと考えます。

 

 時浦さんだって「都合が悪いのか」と、あくまで推測であることがわかるように書いているのですから。

 たとえば、以下のことだってそうです。

 

 将来、甲状腺ガンを誘発するかもしれない「ヨウ素131」の初期被爆の調査が行われなかったのはなぜか?

 

 双葉郡の住民アンケートを実施した福島大学から『飯舘村でも実施しないか』との提案があったのに、村長が断ったのはなぜ?

 

 これらのことだって、「それが行われると都合の悪いことがあるのではないか?」と考え、口にすること自体が禁じられてしまうのは、それこそジャーナリズムの危機ではないでしょうか?

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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