3月12日の参議院予算委員会でのやり取りで、藤村修官房長官が「男系・女系」
について問われ、シドロモドロになったと、
一部マスコミが鬼の首でも取ったかのように報じた。
しかし、現在の「男系・女系」についての政府の解釈自体に、
重大な問題が孕まれていることに気付いている人は、少ないようだ。
官房長官が後ろの席の官僚からメモを渡されて、やっと答弁した内容は
「天皇と男性のみで血統がつながる子孫が男系子孫。
それ以外が女系」というもの。
勘のいい人は、全く予備知識がなくても、
この答弁をチラッと耳にしただけで、何か妙な印象を受けたはずだ。
「男系の定義が『男性のみ』と極めて窮屈に絞った概念規定になっているのに対し、
女系は『それ以外(全て)』という甚だ漠然とした幅広い内容になっていて、ひどくアンバランスだな」と。
じつはその通り。
男系・女系について、分かり切ったことのように語る人も多いが、
そんな人ほど何も分かっていないと見た方がいい。
彼らは、当然のごとく、政府の解釈を無条件の絶対的前提として受け入れてしまっている。
その上で「女性天皇と女系天皇の区別もできない奴がいる」などと嘲笑っている。
だが率直に言えば、五十歩百歩。
そもそも現在の政府の解釈は、男系絶対論者が口を極めて非難した小泉政権時代の
「皇室典範に関する有識者会議」の報告書に盛り込まれた内容を、
そのまま踏襲したに過ぎない。
更に同報告書の男系・女系の定義は、有識者会議で副議長を務めた元最高裁判事、
園部逸夫氏の『皇室法概論』に依拠している。
それらの見解の何が問題なのか。
端的に言って、女系の概念を広く取りすぎている。
『有斐閣法律用語辞典第2版』には、「厳密には女子だけを通じた血族関係をいう」と、
明確に定義している。
この「厳密」な定義に従えば、女系についても、男系と対になる形で、
「天皇と女性のみで血統がつながる子孫」という概念規定になったはずだ。
ところが、同辞典は一方で、「広く中間に1人でも女子の入った、
男系でない血族関係をさして用いられることもある」と、
“広義の女系”についても、補足的に言及している。
園部氏『皇室法概論』は、補足的に取り上げられた後者の概念規定を採用。
有識者会議報告書、政府見解も、これに倣った。
だが、“広義の女系”概念については、
既に「文化人類学のuterine(女系)ではなくnon-unilineal(非単系)に相当する」
との学問上の批判がある(吉田孝氏)。
やはり、女系を理解する場合、「厳密」な概念規定に従うべきだ。
更に政府見解は、歴史上あまた存在した、
皇室の血筋をひく方同士のご結婚でお生まれになったケースを考慮していないように見える。
例えば、今の天皇陛下は、父は言うまでもなく昭和天皇で、母は香淳皇后。
香淳皇后は久邇宮家のご出身だから、
遠く北朝第3代崇光天皇の血筋を受けておられる。
ということは、今上陛下は「男性のみ」でなく、女性でも天皇と「血統がつながる」。
ならば、政府の解釈では当然、男系「以外」。
つまり、女系という分類になろう。
何と、我々は既に「女系」の天皇を戴いていたのだ!
それどころか、こうした事例の最も古いケースを探ると、
どうなるか。
最初の事例は、第11代垂仁天皇だ。
父は第10代崇神天皇で、母は第8代孝元天皇の孫にあたる女性。
やはり、女性によっても天皇と「血統がつながる」。
従って、政府の定義では、これまた女系と判定する他ない。
垂仁天皇以降、歴代の天皇は皆、この天皇の血筋を受け継いでいる。
ならば、125代中、最初の10代を除き、全て「女系」継承だったことになるのではないか。
今の政府の見解を前提とする限り、そうなってしまう。
政府見解のおかしさは、もはや明らかだろう。
皇室典範改正を巡る議論は、これまでにも指摘してきたように、
最も基礎になる「男系・女系」の定義から、見直す必要がある。
男系絶対論たちは、何でもかんでも「女系」と判定して、
皇室の歴史を殆ど女系一色に塗り潰してしまう、
政府によって拡張された女系の定義を、何故そのまま無批判に受け入れているのか。
実に不思議だ。
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