国書刊行会から学界待望の『続・田中卓著作集』(全6巻)の刊行が始まる。
田中先生の古代史研究における業績が精緻で卓越している事実は、専門家の間では夙によく知られている。
戦後の歴史学がいびつなものになっていく中で、歴史学の正道を守る為に敢然と戦いを挑んで顕著な成果を挙げてこられたのも、
知る人ぞ知るところであろう。
だが、昨今の出版事情から考えて、こうした企画が実現を見た背景には、先生の著作集刊行に向けた、関係者のよほど強い熱意があったに違いない。
先ずは刊行代表の熱田神宮宮司、小串和夫氏以下4名の方々をはじめ、関係各位に深甚の敬意と感謝の念を表したい。
顧みれば著作集正編(全12冊)の刊行開始は、昭和60年のこと。
その完結が平成10年。前後十数年にわたる大事業であった。
それから更に十数年の歳月を経て、今、新たに著作集続編の刊行が始まろうとしている。
近来の快事と言うべきであろう。
田中先生は、この間、齢を重ねられ、大病さえ経験されながら、決して屈することなく、研究に打ち込んでこられた。
そのご努力が、6巻もの続編を生み出すことになった。
それは、或いは正編以上に骨身を削る労苦の賜物と申して、敢えて過言ではないかも知れない。
月並みな表現を許して頂けば、まことに学者の鑑(かがみ)と言う他あるまい。
しかもその精密な研究の背後には、祖国への深い憂念が蔵されている。
正編刊行にあたって、法制史の分野で不滅の業績を遺され、我が国律令学の大成者と言うべき瀧川政次郎博士が、推薦の言葉の中で、
田中先生を「正統日本史学唯一の闘将」と称えられていたと記憶する。
けだし至言であろう。
著作集正編12冊は、これまで何度も読み返し、多大の学恩を蒙ってきた。
続編も早速、全巻予約させて頂いた。12月刊行予定の第1巻『伊勢・三輪・賀茂・出雲の神々』の配本が、今から楽しみだ。
謹んで著作集続編の刊行をお祝い申し上げると共に、先生の末永いご健康とご多祥を祈り上げる。
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