ゴー宣DOJO

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切通理作
2011.6.23 04:51

タブーを取り払うために

震災後、原発や放射能の問題が
日々報じられ、論じられる傍らで、
「君が代」斉唱時に起立しない教師への
処分が妥当かについての判決が
次々と出されています。

僕が小学校四年生の時、
それまでの音楽の先生が辞めて、
新しい先生になりました。

その先生になって、初めて「君が代」を
習いました。

いままで聞いたことのなかった新鮮な旋律に
驚いたことを思い出します。

ピアノを弾き始める前、
「いろいろ親だのなんだのが言ってくるが、
面倒くさいから歌うことにした、
四の五の言うやつァ勝手にしろ」
と一種クダを巻くようにその先生が
話していたのを、思い出します。

もちろん、僕を含めた生徒たちは
「君が代」自体を知らないのですから
先生が何のことを言っているのかもわからず
ただポカンとしていました。

多分、「君が代」を教育現場で歌うことに論議があり、
前の先生は「歌わない」立場だったのでしょう。

新しい先生は、「君が代」を歌うことにしたということ
自体は当時一歩踏み込みましたが、
しかしその態度はいささか投げやりで、
生徒にその歌の意義を教えることもなく、
ましてや天皇陛下のことも話題にしなかったと思います。

敗戦後、
「日の丸」「教育勅語」とともに
「君が代」も多くの教育現場から
姿を消しました。

もちろん、地域によっても
学校によっても
差はあったでしょうが
僕の通っていた東京23区内の小学校は
それまで「歌わない」側でした。

僕の小学校時代である1970年代あたりから
教育現場に「君が代」が復活し、
戦後民主主義下にある教師たちが
反発しました。

高森先生がおっしゃるように、
「戦争責任が天皇にある」という見方は、
教え子を戦場に送ってはならない、
そういう空気の復古を許すな、という
姿勢を生んだのだと思います。

僕も、おおざっぱにそういう空気の中で
生きてきましたが、
小林さんの『天皇論』を読んでいくうちに、
それまで思い込んでいたことや、
当り前のように感じていたことが
取り払われていきました。

いまでは「天皇に戦争責任がある」とは
思いませんし、
「天皇制」という言葉も
本質にそぐわないという
認識に立っています。

「君が代」を当たり前に歌えることこそが
健全な環境なのだという認識も
持っています。

しかし、いまだに、かつての自分のような
空気の中に生きている人に、
なんて言っていいのか、
高森さんの言葉でいえば「躓く」
感じがあります。

「君が代」斉唱時に起立しない
教師への処分問題にしても、
たとえばこの件について特集していたラジオ番組などを
聴いていると、識者が出てきて「論議が必要」
ともっともらしいことを言います。

しかし、そういうことを言う人は
本当に「論議」したいのかな?と思います。
現に、その番組の中で、「君が代」に対する意見を
その識者はまったく語りませんでした。

僕の小学校時代の音楽の先生にしても、
なにか、語ること自体「タブー」な感じがあります。

急いで言い添えておきますが、
僕は、卒業式や入学式で「君が代」を歌うことについて、
いちいち「論議」が必要だとは思いません。
それこそ「議論のための議論」に持ち込んで、
国体を破壊する側の口実になるのではないかと思います。

いま起立を拒否して
訴訟に持ち込んでいる教師たちは、
70年代、80年代当時と違って、
<教員免許を持っている運動家>という
側面が強まっているのではないかと
思います。

ですからそのような「議論のための議論」に
落ち込んでしまうこと自体、
罠があると思います。

しかしそのこととは別に、
一人の大人として、
天皇陛下について
普段から語る言葉を持っているということは
大切だと思います。

小林さんの問いかけである、

「果たして、今の日本に、
子供にわかるように
やさしく明快に正しく
教えられる大人が
どれほどいるでしょうか??」
ということは、
先送り出来ない問題です。

理屈だけではなく、
それを同じ日本国民であるという
大きなつながりの中で
示し、示されるようになるには、
どうしたらいいのか、

高森先生の著書『日本の10大天皇』
を読みながら
今度の道場に備えて
僕も考えていきたいと思います。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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