ゴー宣DOJO

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切通理作
2010.11.3 02:45

「近さ」と「遠さ」の錯誤

          私がやらせていただいている「ゴー宣ネット道場」の配信動画せつないかもしれないが二カ月近くぶりに更新になりました。
    道場の中で異色ともいえる、私自身は「幅担当」と呼んでいる番組ですが、第9・10回となる今回はまさに、政治(運動)の言葉とそこでは捉えられない領域の言葉について、ゲストに来て下さった作家の伏見憲明さんに明晰に語っていただきました。
   伏見さんが属するゲイコミュニティでの関係論にも示唆を受けました。
  身近な関係と公の言葉の間にある断絶と、そこにどうやって橋を掛けられるのかということをいつも考えておられる方です。
   
   伏見さんのオネエトークも聴きどころ。「切通さんの×××が見たい」というご発言に、思わず赤面でしどろもどろの私です!
   前回は入院のため欠席していたしじみさんも復帰してます。 
   ぜひ見てください!
  
   身近な関係と公の言葉、ということでいえば、ネットのコミュニケーションと身近な人との対面のそれとの違いで距離感がつかみにくくなってしまうということが、よくありますね。
   ゴー宣ネット道場もニコニコ動画に移ったことで、ニコ動ユーザーの、画面に書き込みしてツッコムというやり方に当惑している従来の道場参加者も少なくないようです。的確でタイミングの良い書き込みがある一方、対面関係ではおよそあり得ない非礼な書き込みや、集中して見ようとしている人を逆に阻害するかのような冷笑性が見られるのも事実です。

   いまやニコ動も毎日そこに書き込むことが自分の居場所になっている人も多いですよね。かつてのインターネットの掲示板や、mixi、ツイッターなどそういう場所をリアルな人間関係と並行して持っていることは日常的な光景となりつつあります。

   秋葉原で17人を死傷した無差別殺傷事件がありましたね。
  その事件を起こした加藤智大もインターネットのヘビーユーザーでした。
  7月の公判で、利用していたインターネットの掲示板について「私にとって帰る場所、自分が自分でいられる場所だった。掲示板上の人間関係は家族同然の人間関係だった」と発言。
  加藤が昨年秋に出した被害者への謝罪文では「温かい家族、恋人、友人、同僚などに囲まれ、人生を満喫していたところを私が全て壊してしまい、いくら悔いてもそれらが元に戻ることは無く、取り返しのつかないことをしたと思っています」と書いていますが、それに続くのが、次の一節です。

  「私にはそういったものがありませんので、それらが理不尽に奪われる苦痛を自分のこととして想像することができず歯がゆいのですが、おそらく、私の唯一の居場所であったネット掲示板において、私が荒らし行為によってその存在を殺されてしまった時に感じたような、我を忘れるような怒りがそれに近いのではないかと思います」(被害者宛ての謝罪文より)

  なんだか無常観を抱いてしまいます。
  身近な関係性以外のネットでの掲示板に「居場所」を求めて過剰なまでにそこに同一化しようとして「裏切られた」と感じて起こした無差別殺人。
  それを反省する文章の中においてもなお「身近な人が理不尽に奪われる恐怖」を想像すらできない……。

  インターネットの荒らし行為や、匿名の不用意な発言に心が傷つくことがあるのはわかりますが、かといってそこに身近な人間とのリアルな関係と同じ重みを見出そうとしすぎるのも問題ですね。

  私は前回のゴー宣道場で「<私>から<公>への経路」というテーマで基調講演をさせていただいた時、距離の近いことと、遠いことを錯誤してしまわないことも大事ではないかと述べました。凶悪犯罪者の事例が一般化できるのかという声もあるかとは思いますが、加藤においてその錯誤が象徴的にあらわれている気がしてなりません。

  こうなってしまわないような「居場所」作り。それは大人である以上、自分が築き上げてきたもの、築き上げてこれなかったものの反映であるはずです。

  もちろん、それは社会とも密接に関係があります。加藤紘一議員が秋葉原の無差別殺人を話題にし、共同体の不在を問題にしていたのは必然だと思います。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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