少し専門的な話題、ご容赦頂きたい。
近刊の岡田荘司氏編『日本神道史』(吉川弘文館)の中で、岡田氏は「神道」の成立を7世紀後半・8世紀とする見方を示しておられる。
その成立を縄文・弥生時代とか古墳時代などとより古く考える意見に対しては、それは成立以前の「成立の淵源」に当たるとして退け、より新しく平安初期とか院政時代などと見る立場に対しては、「成立期以後に展開する神道史上の転換期」として自説を打ち出されたのだ。
なかなか巧妙な説明の仕方だ。
だが、そうした論法を使えば、どのような意見でも自説を通せることにならないだろうか?
大切なのは前提となる「神道」の概念規定。
その妥当性によって、成立期をどう見るかも、自ずから決まって来るはずだ。
しかし、残念ながら明確な概念規定もないまま、成立期の問題が論じられている。
これでは、学問的には肯定も否定も出来ないのではあるまいか。
同書に収める笹生衛氏の手堅い考古学上の成果に立脚した論文には「弥生時代には、明らかに後の神信仰に連続する要素が見られるようになる」とか「古墳時代初期から前期…その後の神信仰に直接つながる要素が、次第に明確となっていった」といった記述がしばしば見られる。
あるいは笹生氏は『大美和』119号の論文でも「5世紀代の祭祀の記憶が『記紀』神話に投影されていたと考えられよう」とも述べておられる。
成立以前の「淵源」と成立期の線引きを、説得力を持って行うのは、さほど容易なことではないようだ。