徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方⑨ byケロ坊
16.圧政への抵抗と自由の支持の表明
佐藤健志版(PHP研究所)
「だが、「圧政への抵抗と自由の支持」という、私の果たすべき使命から逸脱したわけではないと確信している。」
二木麻里版
「こうした意見を語るわたしという人間は、権力の手先になることも、高位の人物の追従者になることもなかった人間で、
〜中略〜
公的な活動のほぼすべてを捧げて他者の自由を守るために戦ってきた人間です。暴政に対する怒りのほかには、消えない怒りも激しい怒りも心に感じたことのない人間です。」
中野好之版(岩波文庫)
「これは、今日まで権力筋の手先や強者への追従者であったことが一度もなく、
〜中略〜
その公的な活動の全体がすべて他人の自由のための奮闘であった人間、そしてその人間の胸中には彼が圧政と看做した事柄で惹き起こされた以外の如何なる永続的で激烈な憤怒も決して燃え上がらなかった人間の言である。」
ここまで見てきたものと同じ傾向なのですが、そもそも佐藤版は他の本と比べて文字が大きいわりに、ページ数もかなり少ないです。
それはこのような要約を全編にわたってやっているからですね。
内容に関して言えば、バークが、権力の手先や、御用学者・御用ジャーナリストのようにはならず、他人の自由のために戦ってきたと自認しているのは間違いありません。
詳しくはわかりませんが、当時は先進的と思われていたフランス革命を徹底批判した一件だけでも、その気概がうかがえます。
そう考えると、「保守・右派は独裁や排外主義を志向する」みたいな考え方も本質論としてはおかしく、ただの左翼側からのレッテル貼りの面が強いのでしょう。
かと言ってトランプに保守としてのバランス感覚があるようには見えませんし、そもそもアメリカに(ここまでに書いてきた意味での)歴史はありません。
加えて日本においても保守を自称する人たちが権力志向の保身の振る舞いしかしてないのも頭が痛いところです。
バークのような権力や強者への追従はしないという構えがないニセの保守だから、安倍の崇拝や米軍のドレイになり、さらには反左翼の看板で日本の権力に入り込んで生き残りを図る反日カルトの統一協会とズブズブになったりしたわけで、男系派やネトウヨや自称保守の人たちはいつになったら反省や省察というものをするのでしょう?
国に禍根を残したまま霞のように消えていくだけの人生なのでしょうか?
17.固執は保守ではないこと
佐藤健志版(PHP研究所)
「特定の主義主張に、ひたすら凝り固まるのは正しくない。自分の使命を果たすためなら、いつでも姿勢を柔軟に変えられる者こそ、真の守備一貫性を持っているのだ。」
二木麻里版(光文社文庫)
なし
中野好之版(岩波文庫)
なし
ここは『省察』の最後の締めの一つ手前のセンテンスで、内容はもちろん良いのですが、佐藤版以外のどの翻訳を読んでも、バークは「私はこれこれこういうタイプの人間です」と列挙しているだけでした。
仮に『省察』のまとめをライターとして書けばそうなると言えますが、超訳のしすぎで、保守思想の祖がどういう人なのかが見えなくなっているなと感じます。
バーク自身が締めに向けてどう書いているかを知りたい方は、やはり佐藤版以外をお読み下さい。
「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」
第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無
第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係
第3回
7. 王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父
第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証
第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点
徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方
第1回
1.「人権は爆弾」と言ってるところ
第2回
2.革命派・人権派による王室否定と女性差別の指摘
3.「prejudice」の訳し方
第3回
4.常識が失われることへの警戒
5.困難に立ち向かうこと
第4回
6.自国の歴史を省みないのはうぬぼれ
7.迷信に執着するのは保守ではない
第5回
8.政治家への評価の基準
9.『コロナ論』とも共通する病気への対処法について
第6回
10.「バランス感覚」という言葉の有無
11.愛郷心の大事さ
第7回
12.革命派は“賢者の石”詐欺に遭った人と同類
13.「啓蒙」という詐欺行為
第8回
14.無制限な自由への批判
15.迎合した人のその後
さすがに、原著にないようなことを勝手に入れてしまうというのは「訳者」としてどうなんだろう?というしかないですね。
自分の本をここまで熱心に読む人なんかいないだろうとでも思っていなければ、できないことじゃないかと思ってしまいます。
さて、徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方は次回が最終回です。
どうぞお楽しみに!!