徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方⑧ byケロ坊
14.無制限な自由への批判
ここも『戦争論』と連動する内容です。
佐藤健志版(PHP研究所)
「英知や道徳を伴わない自由とは何か?世のさまざまな悪の中でも、もっとも忌まわしいものである。愚行、背徳、狂気が蔓延し、それらを抑え込む手段もなければ、身を守る手段もない。
自由には道徳が不可欠なのだ。頭が空っぽのくせに「自由、自由」と叫びたがる連中は不愉快きわまりない。思い上がりもいい加減にしろと言いたくなる。」
二木麻里版(光文社文庫)
「しかし叡智のない自由、徳のない自由とはいったいどんなものでしょうか。これは考えられるかぎり最も忌まわしい害悪なのです。それは教えることも抑えることもできない愚行で、悪徳で、狂気だからです。
徳をそなえた自由がどんなものかを知っている人なら、無能な人びとがいかにもりっぱそうな言葉を口にしてそれを汚すことに耐えられないものです。」
中野好之版(岩波文庫)
「だが、叡智と美徳を抜きにした自由とは何か?それは、考えられるあらゆる悪の中の最大のものである。それは、監督も抑制もない愚行、悪徳、狂気である。有徳な自由が何かを弁えている人々は、無能な徒輩がこの種の調子よい科白を口にすることでそれが傷つけられるのを見るに耐えない、と感ずるだろう。」
佐藤版はわかりやすい代わりに、バークの人格まで変わってるように感じられるのはどうなのかなあと思います。
『省察』の最後に本人が「激しい怒りも感じたことのない人間です」と書いてるだけになおさらです。
ともかくバークは、束縛のない自由なんかろくでもないしデタラメだ、ただ混沌でカオスなだけだ、と看破していました。どの翻訳を読んでもそう言っています。
そしてここもまた繰り返しになってしまいますが、『戦争論』に大喜びしたあと、今男系派をやってる自民党の政治家(特に麻生太郎)や、ネトウヨや、自称保守系の団体は、保守思想を一体何だと思ってるのでしょう?
マスコミの方々にも、「女性(女系)天皇は保守派の反発が根強い」とか書くのはいい加減にやめてもらいたいところです(発狂ネトウヨのように廃業しろとは言いませんから笑)。
その人たちは保守思想の祖に照らしてどこも保守じゃありませんよ。
15.迎合した人のその後
佐藤健志版(PHP研究所)
「いったん迎合に走ってしまったあと、あらためて毅然と正論を説けるはずがない。」
〜中略〜
「目的が手段を正当化する」と割り切ったつもりでも、逆に「手段が目的を否定する」顛末に陥ることは明白である。」
二木麻里版(光文社文庫)
「その場合、かれらは立法者ではなく追従者に、民衆の指導者ではなく道具になってしまうでしょう。」
〜中略〜
「やがてそうした民衆指導者は信用を維持しようとして(こうした信用があるからこそ指導者は計画を穏健に実現できるはずなのですが)、それまでめざしていたまともな目的をいずれ破壊してしまうことになる理論を宣伝したり、そのための権力を確立することに熱心にならないわけにはいかなくなるのです。」
中野好之版(岩波文庫)
「彼らは、立法者ではなく追従者に、民衆の案内人ではなくその手先になる。」
〜中略〜
「その結果、人気ある指導者は、他日何らかの機会に自分を抑制と中庸へ引き戻す影響力の確保のために心ならずも、彼が究極的に意図するこの穏健な方針を後になって或いは打倒しかねない教説の喧伝や権力の樹立に肩入れする結果となろう。」
バークは具体例を挙げて迎合のダメさを書いているところを、佐藤氏は大胆に短くしています。
とりあえず首相になるため、長島昭久(東京30区で落ちたのに比例で復活した惨めな男系固執の政治屋)に迎合して、男系闇堕ちした石破“賊”茂を当てはめて読めば、とてもわかりやすいです。
男系派の追従者であり手先になって、権力者でいることのみに熱心になり、皇位の安定継承及び皇統の永続という、当初のまともな目的を破壊しています。
「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」
第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無
第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係
第3回
7. 王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父
第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証
第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点
徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方
第1回
1.「人権は爆弾」と言ってるところ
第2回
2.革命派・人権派による王室否定と女性差別の指摘
3.「prejudice」の訳し方
第3回
4.常識が失われることへの警戒
5.困難に立ち向かうこと
第4回
6.自国の歴史を省みないのはうぬぼれ
7.迷信に執着するのは保守ではない
第5回
8.政治家への評価の基準
9.『コロナ論』とも共通する病気への対処法について
第6回
10.「バランス感覚」という言葉の有無
11.愛郷心の大事さ
第7回
12.革命派は“賢者の石”詐欺に遭った人と同類
13.「啓蒙」という詐欺行為
翻訳って、原文の「趣旨」を「わかりやすく」見せてさえいれば、それでいいものなのか?という、根本的な疑問が湧いてきます。
同じことを言っていても、その人の語り口からにじみ出る人格によって、感じ方には大きな違いが出てくるもので、佐藤氏の「べらんめえ口調」のバークと、他の訳の冷静で理路整然としたバークとではまるで別人です。
わかりやすければ「べらんめえバーク」でいいとは、どうしても思えません。
冷静で理路整然としたバークの人格まで反映させて、なおかつわかりやすくするのが翻訳家の腕の見せ所というものじゃないですかね?
もっとも私は英語ができないので、だったらお前がやれと開き直られたらそれまでですが。