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2025.1.21 07:00ゴー宣道場

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方③ 常識が失われることへの警戒/困難に立ち向かうこと

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方③byケロ坊

 

4.常識が失われることへの警戒
佐藤健志版(PHP研究所)
「長年にわたって保たれてきた価値観や慣習が失われることの損失は、まさしく計り知れないものである。
それは航海中の船が羅針盤をなくすにも等しい。われわれは、自分たちが正しい方向に進んでいるかはむろん、そもそもどんな方向をめざしているのかさえわからなくなってしまう。」

二木麻里版(光文社文庫)
「生活についての古い意見と規則がうしなわれるときは、計り知れない大きな損失になるでしょう。
その瞬間からわたしたちは自分を統治する羅針盤をなくした状態になり、どの港に向かっているのかもはっきりしなくなってしまいます。」

中野好之版(岩波文庫)
「旧来の社会通念や生活規則が除去されるならば、その場合の損失はけだし計り知れぬものがあろう。
我々は、その瞬間から自らの行動を律する羅針盤を持たなくなって、自分が目指す港の所在さえも分明には識別できなくなるだろう。」

ここは訳としてはお好みでという感じですが、保守思想の根幹と言えます。
この点に照らして自称保守派に向けて言うなら、「男系」は日本人が長く保ってきた慣習でもないし、生活の古い規則でもないし、旧来の社会通念でもないし、さらには側室という男尊女卑の仕組みがなければ成り立たないのは明らかなので、男系派はどの角度から見てもニセの保守ということが言えますね(この論点はこの後もたくさん出てくるのでここでは割愛)。

また、N党立花のような、マスコミに反発心を抱いているネット民を煽動して、常識と民主主義を破壊しまくる新種(?)のネトウヨも出てきています。
立花とネット民は、既存マスコミを「オールドメディア」と呼んで蔑んでおり、つまりは「古い」という理由で破壊しようとしてますが、それは革命派の極左が掲げた理屈と同じなのでした。

事実として、立花に乗っかるネット民には「フジテレビは停波で」と言う人はかなりの頻度でいます(男系カルト路線を行く産経新聞の系列であるフジテレビが一番ネトウヨに叩かれてるのは笑えますが)。
けれどもネット民は、反マスコミを言うわりには、自分らで取材などするわけではなく、マスコミからの情報を前提として世の中を認識してるのに、そんな意識は一切なく「テレビはオワコン」などと言って悦に入っています。

そのわりに一方では、「女の天皇など許さん」の男尊女卑で、古い因習である男系には固執、または無関心からの放置なのだから、考え方としてどうなってるんだと思わずにはいられません(ネトウヨという群れで捉えてるので同じ人かどうかは問いません)。
ちなみに「マスコミはもっとしっかりしろ」と、「オールドメディアはなくなってしまえ」と言うのは、似ているようで全く違う考え方です。

前者は保守としての改善ですが、後者は左翼としての破壊であり、N党立花と彼に乗っかった人は全く保守ではないのは明らかです。
そんなに保守でありたいのなら、まず反左翼だの反マスコミだのの「反〇〇」という逆張りのアンチ思考を止めて、歴史感覚(常識)に基づくバランス感覚から考えなければならないのですが、常識から遊離して群れて発狂行動にまで至るネット民には、これからもそのような思考は望めないのでしょうか?

付け加えると、「稽古」という言葉のもともとの意味は、「昔のことを調べて考えて、今どうすべきかを知る」ということなので、「古」という字に悪い意味はなく、保守の考え方でもあります。
「古いものは悪=新しいものは何でもかんでもいい」は左翼の考え方というバークの指摘を、立花に乗せられて踊り狂って、今も何の反省もしてないネット民は知っておくべきでしょう。

 

 

5.困難に立ち向かうこと
ここは天下国家のことだけでなく、個人の仕事観にも関わることなので取り上げたいと思いました。

佐藤健志版(PHP研究所)
「困難に立ち向かって克服することこそ、分野のいかんを問わず、傑出した存在となるための条
件なのだ。」
〜中略〜
「困難にぶつかることで人間の精神は鍛えられ、技能も研ぎすまされる。」
〜中略〜
「ごまかし仕事に終始した者には、怠けたツケが回ってくる。」

二木麻里版(光文社文庫)
「これまでのすべての技芸における偉大な巨匠たちの名誉は、こうした困難に立ちむかい、これ
を克服することで生まれてきたものです。」
〜中略〜
「わたしたちと争う人は、こちらの神経を強めてくれる人、技能を鋭くしてくれる人です。」
〜中略〜
「怠惰という原則にもとづいて仕事を始めると、怠惰な人間に共通の運命をたどらざるをえなくなります。こうした人びとは困難から逃げ出すというより、困難に立ち向かうことそのものを避けたわけですが、進むにつれてこうした困難がふたたび顔を出してくるのです。」

中野好之版(岩波文庫)
「あらゆる技術において偉大な名匠の栄光は、この困難と対決して克服し、そして彼らが最初の困難を克服した時には、これを新しい困難の新しい克服の手段に転化させることで彼らの学問の
帝国の拡大を可能にし、さらには当初の彼らの考えの範囲を越えて人間の知性そのものの境界線を押し進めることに存した。」
〜中略〜
「我々の抗争の相手は、我々の気力を奮い立たせて我々の技能を磨く。それ故に、我々の敵手
は我々の援軍に他ならず、この困難との我々の友好な抗争は、我々を自分の対象への親密な通暁へ導き、これをあらゆる局面において考察するように強制する。それは我々が皮相であることを許さない。」
〜中略〜
「彼らは、自己の仕事を怠惰の原理で始めることで、怠惰な人間に共通な運勢を招来する。彼らが免れたというよりも回避したに過ぎない困難は、その道程で再び彼らを襲う。」

岩波文庫の中野版が長いのは、句点が少なく1センテンスが長くなるためです。とは言っても佐藤版は相当短くなってますね。

昔からネットには「とにかく働きたくない」という私的な観念が渦巻いていますが、そうやって困難から逃げた先には何もないよと、バークは230年前に言ってました。
同時に、今をときめくあの人(個々で思い浮かべて下さい)も、困難から逃げずに自己の技能を磨いた結果からの今であることは明らかです。

この回をまとめていて思い浮かんだのですが、剣道には「打って反省、打たれて感謝」という言葉があると聞きます。
「礼に始まり、礼に終わる」も、剣道を始めとして武道全般にあるでしょう(グローバル化してしまったものは別)。

12月28日朝のこのブログもそうで、
奇跡を起こすためにはどう描けばいいのか?
にある「人のせいではなく、自分のせいなんだ!」の言葉からも武道の言葉と同じ姿勢を感じました。
もちろん、(私と公の両方の)困難から逃げまくり、政略結婚を平然と言い放つ、不敬と罵詈雑言と他責発言しか出てこない男系派は、どこを取っても保守ではありません。何度も言いますが革命派と同類の左翼です。
公的領域だけでなく私的領域であっても、困難から逃げたり、言っても意味がない愚痴ばかりこぼしてることに意味はないということです。

エドマンド・バークは230年前のイギリス人ですが、武道の精神性と共通することを言っていたことには驚きます。
さらに言えば、バークは歴史的感覚・常識・偏見・伝統と並んで、古代から続いてきた騎士道精神も大事だと書いています。
皇室と国民の相思相愛を鼻で笑う男系派は、自身に武士道精神も忠孝もないということを表明してるのと同義で、自分がニセの保守であることを自白してしまっています。

 

「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」

第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無

第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係

第3回
7.   王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父

第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証

第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点

 

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方
第1回
1.「人権は爆弾」と言ってるところ

第2回
2.革命派・人権派による王室否定と女性差別の指摘
3.「prejudice」の訳し方

 

 


 

 

フジテレビに対して騒いでいる人など、まさに本当は改善なんか望んでおらず、ただ破壊衝動を満たしたがっているだけでしょう。
「革命」の熱狂というのはこういうものだったのだろうなと思わされます。それで熱狂が過ぎ去った後には、何も残らないわけですが。

フジがスポンサーに逃げられて経営が苦しくなったら、フジに赤字を補填してもらってようやく存続していると噂される産経新聞や雑誌『正論』なんかひとたまりもなく潰れるだろうから、それはそれでいいかと言いたくもなりますが、こんな風潮が定着して常識が破壊されてしまうことの方がもっと大ごとなので、そんな軽口も叩いちゃいられませんね。

 

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