先日の記事で紹介した青山繁晴の動画を批判するイントロダクションとして、まずは青山率いる自民党内の議員連盟「日本の尊厳と国益を護る会」が令和元年10月(件の動画の二ヶ月前)に出した「皇位継承の安定への提言」という酷い内容のペーパーをケチョンケチョンにしておきます。
まず冒頭は、天皇・皇室について学校教育で殆ど触れられない事を憂う内容。
わたしたち日本国民は、昭和20年、西暦1945年から74年間、天皇陛下と皇室の存在意義を学校で正面から教わることがないままに来た。それは家庭教育にも似通った現実をもたらしていると思われる。
この、それ自体はもっともであるように見える一文により、意義ある提言であるかのような印象がもたらされます。
ところが、その次段になると
そのために、天皇陛下のご存在を男系・父系によって続けることの根本的意義あるいは世界的価値を知る機会に乏しい。
突然、天皇の価値は男系継承に依るものという、イデオロギー色の強い方向に脱線!
政治家の「提言」であれば、立憲主義の国家である現在、そして未来の日本において、天皇・皇室と国民との関係をどう築いて行くかという「生きた」視点が不可欠ですが、このペーパーにはそういった姿勢は一切登場しません。
本文では次に、仁徳天皇の「民のかまど」の逸話や、無私の存在として民のために祈られる事など、冒頭の学校教育に関する部分と同様に「一見もっともらしい事」を述べますが、その帰結が
民のための祭り主であられる役割を受け継がれることが、皇位継承の本質である。
これは、「天皇は祭祀王」という概念を極端に単純化したレトリック(国連女子差別撤廃委員会で勧告への抗議を行った者たちと同じです)。
現代の天皇は、国と国民統合の象徴たる「権威」として、内閣(権力)の助言と承認・責任において、これだけの国事行為を行います。
(1)国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること。
(2)内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること。
(3)憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
(4)国会を召集すること。
(5)衆議院を解散すること。
(6)国会議員の総選挙の施行を公示すること。
(7)国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
(8)大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
(9)栄典を授与すること。
(10)批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
(11)外国の大使及び公使を接受すること。
(12)儀式を行うこと。
(13)国事行為を委任すること。
国民から「権力」を委任されている政治家という立場の者が、これだけの役割を完全に無視して「祭り主」という単純化を行うのは、天皇の権威を弱め、自分たちがより強い力を持とうとしているようにしか見えません。
このペーパー内ではことさら「伝統」という言葉を多用し、政治的な意図とは一線を画しているかのように見せかけています。
しかし、現代の天皇が国家の在り方・運営と密接に関わっている事を無視する行為は、それ自体が極めて政治的であり、同時に不誠実です。
こうした面だけを見ても、この提言書には「詐欺」的な性質が非常に色濃いと言わざるを得ません。
詐欺は言い過ぎだって?いやいや、その中核に据えている「伝統」の部分にフォーカスすると、明確な嘘やミスリードが山のように存在しています。
次回は、それらを一つ一つ容赦なくつぶして行きます!