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大須賀淳
2024.1.5 11:24メディア

隙間の幽霊

ステレオ(左、右それぞれに発音部分のある装置)で音楽などを聴くと、物理的には何も無いはずの「真ん中」の位置からも音が聴こえてくると思います。

 

この現象は、制作上の専門用語では「ファントム・センター」と呼ばれます。ファントム(幽霊)のように、何も無いはずなのに存在を感じられるセンター(中央)の音、という意味です。

 

これは特殊な現象でも何でもなく、左右2つしか無い耳で「音の方向」を感じられるのは、各々の耳における音量や音質の差分から「」が最終像を作り上げているためです。

 

聴覚も視覚も、身体による物理現象の受信に他ならないのですが、最終的に我々が認知している世界像というのは「脳によるレンダリング」を経たモノなんですね。

 

そうした、音に関する知覚現象の一つに「耳鳴り」があります。原因は様々ながら、耳鳴りという現象も実際には鳴っていない「キーン」という音が聴こえたり、特定の周波数帯域が増補されたように感じてしまう「脳のバグ」の一種です。

 

実は私は、心身の不調や疲労が割と「耳鳴り」の形で出やすいタチでなのですが、ここ数日は全く感じないレベルになっており、大変調子の良い状態です。

 

すると、普段は「耳鳴りの生成」で浪費されていたであろう脳のキャパシティに余裕ができたのか、「部屋を無音にしている時の〝音〟(ACアダプタの「コイル鳴き」など)」まで含め音の細部に渡るまでの感受性がアップ。

 

このように聴覚の調子が良いと、何百回も聴いているようなお気に入りの曲でも、クリアに感じられる分だけ「パート同士の関係性」(プレイヤーや編曲者の意図)といった「行間」への想像力が働き、最終的に自己が感じる世界は非常に「濃密」になります。自分自身の中でさえ、同じモノに触れた時の感受が、時と状態によって異なるんですね。

 

これは耳と脳との関係に限らず、人間のあらゆる感覚にあてはめる事ができそうで、知覚のレベルにおいて「世界」は人間(精神)の数だけあり、それがロマンと分断の両方を生んでいるのかもしれない。

 

まったく理解できないような価値観で悪辣なふるまいをしているように見える人物は、何も存在しない隙間に「幽霊」を見て、怯え取り乱しているのかもしれません。

大須賀淳

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