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笹幸恵
2023.10.8 08:03皇統問題

皇統問題そっちのけで知識自慢に走った倉山満。

『SPA!』(10/10・17号)で、倉山満が
嵯峨天皇”推し”の記事を書いている。

自身が今月末に古代史の本を出すというPRに加え、
こんなふうに綴っている。

「現代の皇位継承問題を論じる際に、
古代史の正確な知識が無く、
議論が歪められる場面に何度も遭遇した。
そこで、『私だって知っている』レベルの
古代史の常識をまとめた」

「古代史の正確な知識が無い」のは誰なのか、
主語が判然としない。
普通なら「私に古代史の正確な知識が無く」と読める。
ならば「学べよ」と思うのだけど、
なぜか倉山は自分の知っている常識をまとめたと
書いている。ということは、
「自分以外の人に古代史の正確な知識が無く」
と言いたいのかな?
それなら「専門外の俺様だって知っているレベルの
古代史をまとめといたから勉強しろよ」という
後段としっくりくるね。

もっとも、こうして読者の判断を
迷わせる時点で悪文だけどね。


さて、その後「本に書ききれなかったことを書く」と
言って、最初から最後まで嵯峨天皇の”推し”記事だ。
この中で指摘しておきたいのは、次の3点。

①嵯峨天皇は上皇側近に情報を漏らさないよう
蔵人頭を設置した。
これを倉山は
「内閣官房への権限集中とインテリジェンス機能の強化である」
と述べ、さも現代に通じる手腕を発揮したかのように綴っている。
えええ?何ですか、これ。
現代のこと、ちゃんと把握している???
内閣が人事権を掌握して官僚が忖度するようになり、
森友問題で公文書改ざん、近畿財務局の赤木俊夫さんが
自ら命を絶ったではないか。
現代の事象を盲目的に善として、
歴史の事象をそれと勝手に結びつけて、
「ホラ嵯峨天皇すごいでしょ」って、
歴史家としてはありえない態度だが。


②嵯峨天皇は「薬子の変」以後、死刑を廃止した。
これを倉山は次のように綴っている。
「EU諸国など、今さら『死刑を廃止していない国は
文明国ではない』などと加盟条件にもしているが、
我々からしたら千年以上前に終わった話をされても
困るとしか言いようがない」

まったく無駄なマウント取りとしか言いようがない。
今度は、死刑制度がある現代日本を完全スルー。
自分に都合よく歴史を切り取る倉山の真骨頂としか
言いようがない。


③嵯峨天皇は律令を一字も改変せず、
実質的な憲法改正(運用の変更)を行った。

これについての倉山の言。
「現代風に言えば、憲法典の条文はそのままに、
恣意的な解釈を防ぐ解釈集を整備、附属法の制定により
不備を補ったことになる」

はああ、これは①に戻って、嵯峨天皇は
現代にも通じるような先進的な手腕を発揮したと?
しかし憲法の条文はそのままに、解釈改憲だけで
やってきた戦後日本がどうなっているのか、
ちょっと考えればわかるではないか。
解釈集が必要な憲法など、褒められるものではない。
(もっとも嵯峨天皇の時代にはその当時の時代背景や
価値基準があったはずなので、現代の解釈ありき憲法が
ダメだからと言って、嵯峨天皇の解釈集がダメだとは言えない。)


この記事からわかるのは、倉山がとにかく
知識自慢をしたい(マウントを取りたい)ということと、
現代のやり方(事象)を無条件に肯定し、
それを過去に当てはめて嵯峨天皇の賛美に使うという、
およそ歴史家とは思えない思考回路をしているということだ。
ムチャクチャだ。


ちなみに、公論サポーターのL.Kさんが
【論破祭り】倉山よ!誤記が目立つ!
天皇の業績くらいちゃんと正しく書け!
https://aiko-sama.com/archives/30460
というブログをアップしている。

常識のある編集者がきちんとチェック機能を果たすしか、
手はないと思うが?
雑誌なら、当たり前のことだと思うが?


それで倉山クン、
皇統問題はどこ行っちゃったんですかね?
嵯峨天皇に関する知識自慢ができれば、
それでいいんですか?
本当に真面目に考えてる?

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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