一夫一婦制の源流は遠く約400〜500万年前にまで遡るという
興味深い仮説が示されている(牛窪恵氏『恋愛結婚の終焉』
光文社新書)。「オス(夫)がみずからの遺伝子を数多く
後世に残そうとするなら…あちこちのメスのご機嫌を取って
繁殖行為に持ち込み、精子をバラ撒くほうが効率的なはずです。
現実にも、チンパンジーは『乱婚』、ゴリラは『一夫多妻』の
類人猿として知られています」「ではなぜ、またいつ、特定の妻(メス)と子に食べ物を運ぶなど、
『一夫一婦』に近い関係性が築かれていったのでしょうか。
針山(孝彦·浜松医科大学)教授は、…『アルディピテクス·ラミダス…』
(約400〜500万年前)の辺りではないかと見ています。なぜなら、残された彼らの『犬歯』を見ると、他の霊長類に比べて、
とても小さくなっており、その歯にオスとメスの区別がほとんど
見られないから。…もしオスが、繁殖行為のたびにメスを巡って争う社会であれば、
オスの犬歯は類人猿のように尖ったままで、メスと明確に
区別できるはずである。
ところがそうでないということは、少なくともアルディピテクス
の時代は、メスを奪い合うのではなく、特定のオスとメスが
パートナーになる『一夫一婦』かそれに近いような、
一定の決まりをもった平和的な関係性を築いていたのではないか」「『日常的に争う社会では、心身ともに疲弊します。
また、当時は“資源配分”の点からも、乱雑な一夫多妻などの
システムを続けていくのが厳しかったのではないでしょうか』(針山氏)すなわち、原始時代は現代のような『貨幣経済』の社会ではなく、
もしあちこちに妻やわが子が分散していれば、都度そこに
食料を運ばなければならなかった。
それはオス(夫)にとって多大なパワーを消費する、
非合理的な作業だったに違いない、といいます」「総合研究大学院大学·元学長で人類学者の
長谷川眞理子氏によれば、ヒト以外の哺乳類で『一夫一婦』が
見られにくい理由は『多くがメスの胎内で子を育て、
出産後もメスだけで物事が解決するため、オスが何かをする
必要性が生じない』からだ、とのこと。ゆえにオスは
パートナーを特定せず、育児に協力するケースも少ないといいます」「そうだとすれば、原始時代における『一夫一婦』の配偶関係は、
できるだけ多くのパートナーに遺伝子をばらまこうとする
権力欲や性的欲求より、特定のパートナーと大切な(限られた)
子を共に着実に育てたいとする欲求(育児)から
生まれたものである、とは考えられないでしょうか」確かに少なくとも「原始時代」において、一夫一婦制を支える
合理的·客観的な根拠は、「育児」の必要性という重大な
ファクターを除くと、以外と薄弱かも知れない。
一夫一婦制の由来の古さを示す1つの仮説的な見通しとして紹介した。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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