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高森明勅
2023.7.17 07:00皇統問題

前例があるので「親王宣下」によって皇籍を取得という時代錯誤

過去において、天皇の正式なご意思が示されることで“親王”の
身分が与えられる、「親王宣下(せんげ)」という制度があった。
これによって一旦、皇族の身分を離脱された方が再び皇籍に
復帰した事例もある(宮内庁『皇室制度史料 皇族 三』)。

しかし、これはあくまでも「皇室典範」という皇位継承や
皇族の身分に関わる包括的な法制度が整うよりも“前の”事例に
過ぎない。

にも拘らず、親王宣下によって旧宮家系国民男性に皇族の身分を与える
という考え方が、一部で示されているようだ。
端的に時代錯誤(!)と言う他ない。

現在、親王・内親王をはじめ皇族方の身分は、もっぱら皇室典範の規定
(第2章)によって100%決定される。
畏れ多いが、個別の天皇のご意思によって、皇室典範の規定とは“別に”
皇族の身分を取得したり、皇位継承資格を得たりすることは、
法的に不可能だ。

皇室典範の改正は、憲法によって国会の議決によると定められている(第2条)。

ところが、もし「親王宣下」という形で個別の天皇のご意思によって
皇族の身分が左右されるならば、それは事実上、皇室典範を改正するに
等しく、天皇ご自身が国会の議決を超越する国政権能を行使することに
なるだろう。

それが憲法上、認められないことは改めて言うまでもない(第4条)。
親王宣下は、明治の皇室典範(明治22年)が制定される少し前の明治19年に、
小松宮彰仁(あきひと)親王の弟宮、定麿(さだまろ)王が養嗣子として
親王の身分を与えられたのが最後だった(依仁〔よりひと〕親王とされ、
後に東伏見宮家を創立)。

親王宣下という、一般の人が馴染みの薄い言葉を振り回しながら、
時代錯誤も甚だしい言説を見かけるのは、愉快ではない。

そもそも、親王宣下という天皇ご自身のご意思に関わる制度について、
旧宮家プランを正当化したいという勝手な政治的思惑によって、
あれこれ指図めいた発言をすることは、不敬この上ない話だ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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