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高森明勅
2023.7.13 10:50皇統問題

神話への初歩的誤解、皇祖神を巡る迷走はいつまで続くのか?

もう何度も述べて来た。
にも拘らず、思考の堂々巡りを繰り返す人たちがいるようだ。
気の毒だが、いつまでもその不毛な堂々巡りから抜け出せない
ケースがある(奇妙なことに、思考の深化・発展という
発想がなく、変化=劣化としか考えられないらしい)。

例えば、皇位継承における「男系」継承への拘りから、
皇室の祖先神について不思議な言説を繰り返す人らがいる。
どうやら、天照大神が“女性”神であることが理由で、
素直に皇祖神と認めたくないようなのだ。
嘘のような滑稽な話だ。

しかし、皇統の“根源”が女性神では皇統=男系という主張に
説得力がないことは、さすがに理解できるらしい。
だから大慌て。

ならば一体、そういう人らは皇祖神にどの神を当てはめようとするのか?
スサノヲのミコトか?
高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)か?
それとも他の神か?
そこを明確にして欲しい。

その上で、以下の質問に真正面から答えて欲しい。

〇皇居・宮中三殿の中央の「賢所(かしこどころ)」に、
天照大神1柱だけが他の神々とは“区別され”(他の神々は全て賢所の隣に
建てられている「神殿」に祀られている)、特別に祀られているのは何故か?

〇天照大神を祀る「伊勢の神宮」だけが古代以来、皇室から
特別な待遇を受け続けて来たのは何故か?

〇皇位のしるしの「三種の神器」の中でも最も尊貴とされる
神鏡が神宮、それに次ぐ宝鏡(神鏡のご分身)が賢所、
それぞれの“ご神体”とされているのは何故か?

〇天照大神以外の神(例えばスサノヲのミコト、高皇産霊尊など)
を祀る場合は、そうした待遇を決して“受けない”のは何故か?

天照大神が皇室の祖先神であることは古代以来、揺るぎのない
信仰上の事実だ。この事実を“出発点”として、天照大神を巡る
神話が形成された。その逆ではない。

人が誰も避けられない現実として“死”はある。
その現実を出発点として死の起源を語る神話が生まれた。
その逆ではない。

だから、死の起源を巡る神話の筋立てをどのように解釈しようと、
人が死を避けられないという現実を変更することはできない。
それと同じように、皇祖神を巡る神話をどのように解釈しようと
(それは多様な可能性に開かれている!)、神話形成の
出発点にあった「皇祖神は天照大神である」という
(唯一の!)事実が揺らぐことはない。

皇祖神の判定は(皇室にとってどの神が歴史上、更に現代においても、
“根源的な祖先神”として扱われているか、という)事実論なので、
実証歴史学的なアプローチが必要だ。
もともと多義性を排除できない、神話解釈論から事実の判定について
確定的な結論を導くのは、方法論的に不可能であることを
知っておく必要がある。

なお、拙著『はじめて読む「日本の神話」』の
プロット分析を持ち出して、天照大神が皇祖神である事実を
否定しようする高森ファン(?)もいるらしい。
拙著を愛読され、その内容を“権威あるもの”として扱って
下さるのは嬉しい。

だが、事実と神話の関係性について初歩的な誤解があるのは、
残念(神話のプロット分析を根拠に事実の確定を行おうとするのは、
そもそも見当違い)。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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