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笹幸恵
2023.6.4 16:59日々の出来事

『テムズとともに』を読んで

天皇陛下のご著書『テムズとともに』を拝読。
陛下がオックスフォード大学に留学されたときの
体験記で、30年のときを経て復刊された。
書店でも平積みになっているところが
まだ多くあると思う。

緻密に、多方面へ配慮しつつも
率直に感じたことなどが綴られていて、
読みながらこちらも勝手に英国への親しみがわいてくる。
日本にはないコレッジ制度の解説などは
その成り立ちから丁寧に綴られていて、
事実をまず予断なく記そうとする姿勢は
なんとなく上皇陛下の実直なお姿と重なる。

一方で、寮の食事にゆで野菜が大量に出て
うんざりしたり、
洗濯物を詰め込み過ぎて洗濯機から泡が噴出、
ランドリーが洪水になった失敗談を披露したり、
街で日本人に出くわし「うっそー」と目の前で
言われて、どう返していいか戸惑ったり、
思わずクスリと笑ってしまうエピソードも
散りばめられている。
人間味を感じさせるユーモラスな点は、
愛子さまが受け継いでいらっしゃるのかも。
(↑この点は、30年経ったからこその楽しみ方ですね)

ただ、その時々で、こうした経験は二度とない、
最初で最後だというようなことも記していらして、
ご自身が本当の意味で自由に過ごせるのは
この留学期間だけだということも
十分にわかっていらした、
そのことにハッとさせられる。

かつて、上皇陛下が学習院高等科の英語の授業で
将来何になりたいかと問われたとき、
「I shall be the Emperor」と答えたエピソードは
よく知られている。
きっと天皇陛下もそのような心持ちで
幼少期から過ごしてこられたのだろう。
一人の国民として、ただただ有り難い。

同時に、天皇皇后両陛下のお子様として
誕生された愛子さまは、それすらも明確ではない
(ただ女に生まれたというだけで)。
何と苛酷なことだろう。
一体いつまで放置すれば気が済むのか。
ほんの少しの想像力があれば、すぐわかるだろうに。

保身のためのエセ尊皇心しか持ち合わせていない
男系固執派に理解せよなど、どだい無理な話か。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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