昭和時代に、田村元(はじめ)・元衆院議長が閣僚として
ご内奏の際に、昭和天皇がおっしゃられた印象深いおことばを
紹介する(岩見隆夫氏『陛下の御質問―昭和天皇と戦後政治』)。「三木(武夫)政権で安倍晋太郎(故人・元自民党幹事長)が
農相〔農林大臣〕をつとめた時だが、昭和天皇のご旅行先で、
案内役に立った安倍が、『ここから先は雑草です』とご説明すると、
天皇は、『雑草という草はない』と異議をはさまれた。
その話が政界に広がり、のちに田村〔元〕が運輸相〔運輸大臣〕で
内奏した折に持ち出して、『感動しました』と言うと、
天皇はこう述べられた。『そんなに感動されても恥ずかしいのだけども、ただ、雑草というのは
人間のエゴからつけている呼び名である。かわいそうだよね。
猛獣という言葉もあるけど、ライオンやトラから見たら、
一番の猛獣はあるいは人間かもしれないね』さらに、次のようなやりとりも田村から。
〔田村氏が申し上げる〕『私は切り花が嫌いでございます。
ハンティングもそうです。生活のためなら仕方がないでしょうけれども、
興味本位で殺すということは、釣りでも嫌いでございます』〔昭和天皇のお答え〕『いまのは私のコメントはしないでおこう。
釣りもハンティングもそれぞれにみなマニアがおることだし、
切り花も各流派があって、その人たちに悪いからね。
いまは田村に相づちを打たないでおこう』」何とも味わいの深いやり取りではあるまいか。
昭和天皇のお答えには、一般的には無自覚に受け入れられている
人間中心主義を冷静に相対化する視点と、「国民統合の象徴」としての
ご自覚の深さを拝することができる。【高森明勅公式サイト】
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