ゴー宣DOJO

BLOGブログ
高森明勅
2023.4.22 08:00皇室

本居宣長『直毘霊』「神道」論のキーワードは「天照大神」

本居宣長『直毘霊』「神道」論のキーワードは「天照大神」

近世国学の大成者、本居宣長。
その代表作は改めて言うまでもなく、35年もの歳月をかけて
完成させた文字通りのライフワーク、『古事記伝』(全44巻)
に他ならない。

その「一之巻」末尾に「直毘霊(なおびのみたま)」と題する
神道論が収められている。
この部分だけでも独立の書物として刊行されている。

私の手元には、『本居宣長全集』(筑摩書房版)本の他に、
西田長男氏『直毘霊』(昭和19年)、中村幸弘氏・西岡和彦氏編著
『「直毘霊」を読む』(平成13年)がある。

その中から、最も核心部分(自注を除き本文のみ)を引用すれば次の通り。

「そも、此(こ)の道は、いかなる道ぞと尋ぬるに、
天地(あめつち)のおのづから(自ずから)なる道にもあらず。
人の作れる道にもあらず。
此の道はしも、可畏(かしこ)きや高御産巣日(たかみむすひ
〔但し宣長はムスビと訓んだ〕)の神の御霊(みたま)によりて、
神祖(かむろき)伊邪那岐(いざなき)の大神、伊邪那美(いざなみ)
の大神の始め給(たま)ひて、天照大御神の受け給ひ、
保ち給ひ、伝へ給ふ道なり。
故(か)れ、是(ここ)を以(も)て神の道とは申すぞかし」

今は詳しく注釈を加える場面ではないので省略するが、
「神の道」の根源を「高御産巣日の神の御霊」に見据えているのは、
古代以来、正史として重視されて来た『日本書紀』よりも
『古事記』を重んじた、宣長ならではの着眼だ
(北畠親房の『神皇正統記』では、『日本書紀』正文の冒頭に
登場する「国常立尊」が「天祖」として国の基を開いたとした)。

また天照大神を「天照大“御”神」と表記しているのも
(訓み方はどちらも同じで、アマテラスオオミカミ)、
『日本書紀』ではなく『古事記』に従っている(北畠親房の場合は
「天照太神」と表記)。

それらはともかく、上記の文脈において「天照大御神」こそが神道を
「(先代から)受け→(自ら)保ち→(後代へ)伝えた」として、
最も重視されていたことは明らかだ。

先にブログで取り上げた見た北畠親房は、「天照太神」を皇位・皇統の根源
(「皇祖」)としたが、本居宣長は神道の継承にとって最も重大な
神として、「天照大御神」を位置付けていた。

近頃、天照大神が“女性神”であることから、皇位の安定継承を巡る
議論との絡みで、奇妙な底の浅い政治的思惑によって、ことさら軽視したり、
相対化したりしようとする「保守」系論者がいるようなので、念の為に。

追記
〇4月18日に発売の『週刊女性』(5月2日号)にコメントが掲載された。
しかし、誌面に載ったのは私が質問に答えたごく一部だけ。
主旨が伝わりにくい断片的発言になっているのは残念だ。

〇4月22日、天皇陛下の清新な青春の記録
『テムズとともに 英国の二年間』が待望の新装復刊。
同書についてはプレジデントオンラインの
「高森明勅の皇室ウォッチ」で取り上げる。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

次回の開催予定

INFORMATIONお知らせ