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高森明勅
2023.1.11 08:00皇統問題

皇室の近年での出生状況を踏まえて「男系」限定は維持可能か?

失礼ながら、近年の皇室の出生状況はどうなっているのか? 
以前、「大正天皇以降の皇室の出生率をトータルで見ると
決して低くない」という意見を見かけた。
だが、「大正天皇以降」という長期スパンでの数字では、
社会的に少子化が進んでいる現代において、
皇位継承の将来を展望する為には、何の参考にもならない。
近い時代の実情こそ直視する必要がある。

上皇陛下以降の世代で、ご結婚によって皇室にお入りになった
女性方(皇后・上皇后・親王妃)の数を分母とし、
実際にお生まれになったお子様方(親王・内親王・女王)の数を
分子にして値を出すと、ちょうど2となる。
一般の合計特殊出生率(令和3年で1.30)よりは高い。

しかし一般の場合は、非婚率の高さが数字を押し下げている。
なので、結婚平均年齢以上の未婚皇族方も分母に加えると、
今の時点で1.333…という数字になる。
いずれにしても、決して安心できる数字ではあるまい。
こうした状況がにわかに好転するとも考えにくいし、
根拠の無い楽観に基づいて対策を立てるべきではない。
むしろ(晩婚化の傾向も見据えて)一層、少子化が進む可能性も
普通に織り込んでおくべきだろう。

と言うより、上皇陛下や天皇陛下の世代には皇室内に複数の
「男系男子」がおられた(上皇陛下の世代には=お5方、
天皇陛下の世代には=お2方)。
しかし僅かな期間に、そのような次世代を生み出す基盤そのものが、
“極小化”してしまった。

しかも、苦肉の策として提案されているいわゆる旧宮家プランは、
憲法が禁じる「門地による差別」に該当するので、
妥当かつ実現可能な方策になり得ない。
そうした条件下で、皇位継承資格の「男系男子」限定
という今の制度を維持すれば、どうなるか。

少し前に、高森稽古照今塾の優秀な塾生の1人が、
「男系男子」限定をこのまま維持した場合の皇位継承の「期待値」を
計算してくれた。
差し当たり、悠仁親王殿下のご結婚を前提にする
(今の状態のままなら、残念ながらご結婚そのもののハードルも
決して低くないのだが)と、以下のような数字になる。
少し甘く、将来どの世代も必ず結婚されて、代々“お2方”の
お子様に恵まれるという、いささか楽観的な仮定でも、
「継承可能性」の数値は以下の通り。

2代目→75%。
3代目→56%。
4代目→42%。
5代目→32%。

かなり厳しい数字だ。
お生まれになるお子様が“お1方”だと、次のようになる。

2代目→50%。
3代目→25%。
4代目→13%。
5代目→6%。

早々と、2代目から危険水域に入ってしまう。
「次の世代の“男系男子”がお1方だけ!」という皇室の苦境は、
もはや目先だけの「皇族数の確保」策でお茶を濁して、
やり過ごせる局面では“ない”ということだ。

元々、正妻以外の女性(側室)から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫
による皇位継承という選択肢が除外された時点で、
持続可能性に無理のあることが分かり切っている、
皇位継承資格の「男系男子」限定というミスマッチな
制度を見直さなければ、皇位の継承は行き詰まる他ない。

それを怠ると、悠仁殿下のご結婚相手が
必ず“健康な男子をお1方以上生む”こと以外に、
皇室存続の可能性は望めなくなる(もし幸いそれが叶っても、
上記の通り薄氷を踏むような危うさから逃れられないが)。
そんな想像を絶する重圧下では、畏れ多いが悠仁殿下の
ご結婚自体が至難になりかねない。

一方、最高法規である日本国憲法が
「世襲=天皇の血統〔皇統〕による継承」として公認している
女子・女系(内閣法制局・執務資料『憲法関係答弁例集(2)』参照)
の皇位継承も可能にした場合は、どうか。

そのケースでは女性天皇・女性宮家も可能となるので、
先ずスタート時点での人数から違ってくる可能性を、想定できる。
現在、悠仁殿下と同じ世代にお2方の内親王がおられるので、
一先ずお3方(内廷プラス2宮家。
その場合、内廷を担われるのは“直系優先”原則に照らして、
敬宮〔愛子内親王〕殿下になろう)として計算すると、
それぞれお生まれになるお子様が“お1方だけ”でさえ
(男女共に継承資格があるので)、
「期待値」計算の結果は以下の通り。

2代目→100%。
3代目→100%。
4代目→100%。
5代目→100%。

まさに安泰。
スタート時の数が同じなら、75%の確率でしか
お1方のお子様が授からないという、“より低め”の
仮定を設けても次のようになる。

2代目→100%。
3代目→100%。
4代目→100%。
5代目→95%。
 
日本人は皇室の存続を望むのか、それとも望まないのか。
もし存続を望むのであれば、採るべき方途は1つしかない。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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