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笹幸恵
2022.10.1 13:53皇統問題

皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈5〉

平成17年報告書と令和3年報告書の読み比べ、その5。
前回は「安定的な皇位継承」から「皇族数の確保」に
勝手に論点を移した令和3年報告書の
「皇族数確保プラン」について見てきた。

〈バックナンバーはこちら〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈1〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈2〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈3〉
皇室問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈4〉

簡単におさらいすると、
プラン①は女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案
(ただし配偶者や子については一般国民!?)、
プラン②は養子縁組で皇統に属する男系男子を皇族にする案
(旧宮家の男系男子、ただし皇位継承権を持たない?)。

このどちらも、「こういう案も考えられます」といった程度の
記述で、具体的な制度について吟味した形跡はなく、
無責任な言いっぱなし状態だ。
報告書というより、放言だ。

では、平成17年報告書ではどのように言及しているか。
男系による継承が維持されてきた背景として、
非嫡系による皇位継承が認められてきたこと、
若年での結婚が一般的で出生数が多かったこと
が挙げられている。
しかし現代の皇室は社会の少子化と無関係ではない
として、次のように述べている。

このような状況を直視するならば、今後、男系男子の皇位継承資格者
が各世代において存在し、皇位が安定的に継承されていくことは極めて
困難になっていると判断せざるを得ない。これは、歴史的に男系継承を
支えてきた条件が、国民の倫理意識や出産をめぐる社会動向の変化など
により失われてきていることを示すものであり、こうした社会の変化を
見据えて、皇位継承の在り方はいかにあるべきかを考察する必要がある。 〔報告書 Ⅲ.安定的で望ましい皇位継承のための方策 1.皇位継承資格(2)男系継承維持の条件と社会の変化〕 (傍線:笹) さらにここで(補論)として、 「旧皇族の皇籍復帰等の方策」について述べている。 やや長いが、「男系継承に固執したままでは なぜダメなのか」が端的に記されていると思うので、 全文を紹介する(がんばって読んで!) 男系男子という要件を維持しようとする観点から、そのための当面の方法と
して、昭和22年に皇籍を離れたいわゆる旧皇族やその男系男子子孫を皇族と
する方策を主張する見解があるが、これについては、上に述べた、男系男子に
よる安定的な皇位継承自体が困難になっているという問題に加え、以下のよう
に、国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの視点から見ても問題点があり、
採用することは極めて困難である。
旧皇族は、既に60年近く一般国民として過ごしており、また、今上天皇
との共通の祖先は約600年前の室町時代までさかのぼる遠い血筋の方々
であることを考えると、これらの方々を広く国民が皇族として受け入れるこ
とができるか懸念される。皇族として親しまれていることが過去のどの時代
よりも重要な意味を持つ象徴天皇の制度の下では、このような方策につき
民の理解と支持を得ることは難しいと考えられる。
皇籍への復帰・編入を行う場合、当事者の意思を尊重する必要があるため、
この方策によって実際に皇位継承資格者の存在が確保されるのか、また、確
保されるとしてそれが何人程度になるのか、といった問題は、最終的には
個々の当事者の意思に依存することとなり、不安定さを内包するものである。
このことは、見方を変えれば、制度の運用如何によっては、皇族となること
を当事者に事実上強制したり、当事者以外の第三者が影響を及ぼしたりする
ことになりかねないことを意味するものである。
いったん皇族の身分を離れた者が再度皇族となったり、もともと皇族でな
かった者が皇族になったりすることは、これまでの歴史の中で極めて異例
ことであり、さらにそのような者が皇位に即いたのは平安時代の二例しかな
い(この二例は、短期間の皇籍離脱であり、また、天皇の近親者(皇子)で
あった点などで、いわゆる旧皇族の事例とは異なる。。これは、皇族と国民
の身分を厳格に峻別することにより、皇族の身分等をめぐる各種の混乱が生
じることを避けるという実質的な意味を持つ伝統であり、この点には現在で
も十分な配慮が必要である。 (傍線:笹) ちなみに、明治典範では皇族復帰を否定している。 明治典範増補(明治40年)第6条 「皇族ノ臣籍ニ入リタル者ハ皇族ニ復スルコトヲ得ス」 なぜなら、皇族と皇族でないものとの区別を曖昧にしないため。 現行典範でも、これを踏襲している。 令和3年報告書では、プラン③として男系男子を 直接皇族にする案を挙げているが、 これはプラン②の養子案に比べて より困難な面もあると記している。 この点では、平成17年報告書と足並みを揃えている と言えるだろう。 しかしプラン②の養子案も同様ではないか。 養子になったからといって、それは単なる手続きの 問題であり、本当に国民の理解と支持を得られるか? 当事者の意思が今なお明確でない以上、 不安定さを内包していることに変わりはないのではないか? 明治典範から規定されている「君臣の別」という ”伝統”をないがしろにするものではないか? 令和3年報告書は、プラン②について、
養子は現行典範では認められていないが、
一般国民には養子縁組はよくあることだから、
皇族数が減少する中では採り得る方策である
と述べている。
ムチャクチャだ。
百歩譲って「国民の理解と支持」が得られたとしても、
「安定性」「伝統」については検討されていない。
結局、たいした考察も検証もなく、
男系継承のための小手先の方策を
提示しているに過ぎないのだ。

これは、プランを提示した後の文章にも表れている。

以上の方策のほかに、現在の制度における皇族の範囲の変更は行わないで、
婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族に、その御了解をいただいた上で、
様々な皇室の活動を支援していただくということも考えられます。現に、皇
族の身分を離れた後も皇室にゆかりの深い役割を続けられている元女性皇
族の方もいらっしゃいます。しかしながら、摂政や国事行為の臨時代行や皇
室会議の議員という法制度上の役割は、「元皇族」では果たすことはできませ
ん。現在の皇室の活動等の担い手を確保していくための一つの方策ではあり
ますが、やはり皇族数の確保のためには、上記①から③のような方策が必要
とされるものと考えられます。 これ、要するに現在の皇室の活動をどうやったら 続けられるか、という観点でしか語られていないことが わかるだろうか。 なぜその活動があるのか、それはどんな意義を持つのか、 ということまで考えが及んでいないから、 「あの人があればいい」「いや、こっちの人でも」 という、単なるパッチワーク的発想になっているのだ。 一方の平成17年報告書では、 男系男子継承維持が困難であることを さまざまな観点から検証し、明らかにしている。 その上で、憲法では天皇の血統に属する者が 皇位を継承することを定めていること (男子や男系であることまで求めていない)、 世襲による継承を安定的に維持するには、 皇位継承資格を女子や女系皇族に拡大する必要が あることを記している。 女性天皇に関しては、明治典範や現行典範の制定時にもこれを可能に
すべきであるという議論があった。現行典範制定の際の当時の帝国議会 においては、歴史上も女性天皇の例があること、親等の遠い皇族男子よ り近親の女性を優先する方が自然の感情に合致すること、皇統の安泰の ために必要であることなどの理由から、女性天皇を可
能にすべきではな いかとの質疑が行われた。その時点では、男系男子の皇族が相当数存在 しており、皇位継承に不安がなかったことなどもあり、男系継承の意義 や女性天皇を可能とした場合の皇位継承順位などの在り方に関して、な お研究を行った上で結論を得るべきものとされた。男系男子の皇位継承 資格者の不在が懸念される状況となっている現在、女性天皇や女系の天 皇について、まさに真剣な検討を行うことが求められていると言わなけ ればならない。 そこで有識者会議では、女性・女系に拡大した場合の 「安定性」「国民の理解と支持」「伝統」 について検討を重ねている。 この中の「伝統」の項目で記されている一文を紹介しよう。 男系男子の皇位継承資格者の不在が懸念され、また、歴史的に男系
継承を支えてきた条件の変化により、男系継承自体が不安定化してい
る現状を考えると、男系による継承を貫こうとすることは、最も基本
的な伝統としての世襲そのものを危うくする結果をもたらすもので
あると考えなければならない。
換言すれば、皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することは、
社会の変化に対応しながら、世襲という天皇の制度にとって最も基本
的な伝統を、将来にわたって安定的に維持するという意義を有する
のである。 (傍線:笹) 男系に固執していては 最も基本的な世襲という伝統を脅かす。 なぜ男系がダメかというのは、このひと言に尽きる! 平成17年報告書では、女性・女系にまで拡大した場合の 皇位継承の設定方法や、皇族の範囲、各種制度についても 緻密に論じられている。 ぐうの音も出ないほどに。 この点、「皇位継承に関しては、養子となって皇族となられた方は 皇位継承資格を持たないこととすることが考えられます」養子となられる方が婚姻していて既に子がいらっしゃる 場合においては、民法同様、子については養親との親族関 係が生じないこととし、皇族とならないことも考えられます」 など、あいまいで中途半端な考えを記しただけの 令和3年”放言”報告とは明らかに異なる。 令和3年の有識者会議は、こうした報告書の先例に対し、 一切の吟味もなく、考慮もなく、話を進めたとしか思えない。 有識者を名乗るな。 百害あって一利なし。 ここに、有識者会議のメンバーを掲載しておく。 〈平成17年〉 岩男 壽美子  武蔵工業大学教授、慶應義塾大学名誉教授
緒 方 貞 子  独立行政法人国際協力機構理事長
  日本経済団体連合会会長
久 保 正 彰  東京大学名誉教授
佐 々 木  前東京大学総長
笹 山 晴 生  東京大学名誉教授
佐 藤 幸 治  近畿大学法科大学院長、京都大学名誉教授
○園 部 逸 夫  元最高裁判所判事
古川 貞二郎  前内閣官房副長官
◎吉 川 弘 之  独立行政法人産業技術総合研究所理事長、元東京大学総長
(五十音順)
◎=座長/○=座長代理 〈令和3年〉 大橋 真由美  上智大学法学部教授
清家  日本私立学校振興事業団理事長 
慶應義塾学事顧問
冨田 哲郎  東日本旅客鉄道株式会社取締役会長

中江 有里  女優・作家・歌手

細谷 雄一  慶應義塾大学法学部教授

宮崎  千葉商科大学教授国際教養学部長

(五十音順)
(笹注:座長は報告書に記載されていないが、清家篤)

杜撰な報告書を出した面々を、よーーーく覚えておこう。

(まだつづく)
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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