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笹幸恵
2022.3.30 12:10日々の出来事

平和主義、生命至上主義は戦後日本の弱点だ。

死ぬのは怖い、イヤだ、何が何でもイヤだ〜〜!!
命が大事、生きていることが一番だいじなんだ〜!!!
という、生命至上主義者の心の叫びを
昨日のトッキーのブログ
無自覚なロシアの味方・玉川徹
から感じ、目まいがした。

平和とは何か。
戦争していないというだけのことだと
福田恆存は喝破した。
「単なる事実を示す消極的な意味にすぎない」のに、
戦後日本はそれを、何らかの価値を示す
積極的な意味として捉えた。
それが戦後日本の弱点だと福田は言った。

積極的な意味として捉えると、どうなるか。
平和をお題目のように唱え続けるだけとなる。
その意味も、そこから生み出される(または生み出されない)
価値をも考えなくなる。
ただただ戦争は悪、平和は善、命が大事、
それ以上のことを考えなくなる。
深い洞察など必要ない。善悪二元論でばっちり解決、
思考停止の甘い罠。
戦後日本は、それにどっぷり浸かったのだ。
玉川徹のような生命至上主義者は、そのなれの果て。

生命至上主義は、物事の本質を見誤らせる。
誰が侵略者で、誰が被害者なのかをあべこべにする。
最優先は「命」だから、あとはどうでもいい。
結果、力でねじふせる、ねじふせられることを
許容する。
自分の「命」が大事だから、自分以外の、
愛する人のため、愛する故郷のため、愛する国のために
戦うという尊い自己犠牲的精神を否定する。
結果、究極のエゴを容認する。

ただ息をしていればいい。
生命至上主義者は、それが「生きる」ことだと
信じて疑わない。
家族を失い、友人を失い、故郷を追われ、国がなくなる。
自分を自分たらしめているつながりや拠り所が
全てなくなったとき、人間は「生きている」と言えるのか。
生きているというなら、その実感をどう得られるのか。
今のウクライナを見てもなお、そのことに思いがいたらないなら、
感性がすさまじく劣化しているとしか言いようがない。

真に「生きる」とはどういうことなのか。
ぬるま湯に浸かった80年間で、
戦後の日本人はそれを一顧だにしなかった。
玉川徹のような人間は、その代表格だ。

平和主義や生命至上主義は、
自分ひとりの力で生きていると信じて疑わない、
じつに浅はかで、究極的に傲慢な人間を生んだのだ。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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