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高森明勅
2022.2.2 09:00皇統問題

男系限定論者が唱える奇妙な論理(?)のいくつか

客観的には無理な条件下でも頑固に男系限定を主張する人々がおられる。
そうした人々が唱える奇妙なロジック(没論理)がある。
ちょっとした息抜きとして、そのいくつかを取り上げてみよう。

〇その1
皇室の方々と国民との婚姻を巡る現行制度の在り方が「男尊女卑」的だと言うが、
国民女性は男性皇族との婚姻によって皇族になれるのに、
国民男性は皇族女性との婚姻によっても皇族になれない。
だから男尊女卑ではなく、逆に女性尊重であり、男性への差別だ。

コメント→
先ず、これは近代以降の話であることを確認しておく。
以前、指摘したように、前近代では身分は血統のみで決まり、
男女共に婚姻後も変更はなかった。
その上で、今の制度では女性皇族が国民男性と婚姻した場合、
皇族の身分を離れて国民になる事実も、視野に入れる必要がある。

そうすると、女性は皇族でも国民でも、相手と身分が違う場合
(=皇族同士とか国民同士ではない場合)は、婚姻によって一律に
“男性と同じ”身分に変更されることが分かる。
一方、男性は皇族でも国民でも、婚姻後も身分に何ら変更はない(!)。

以上の事実は、身分の在り方について、もっぱら男性“だけ”を
基準としていることを示す(男性の身分を不動の“軸”として
女性は婚姻によってそれと同一化)。
だから、女性尊重や男性への差別などでは勿論なく、
やはり旧時代式の「男尊女卑」的価値観が反映した制度と言わざるを得ない。

〇その2
女性・女系天皇を認めなければ皇位継承の安定化が図れないと言うが、
それらを認めても必ず安定継承を確保できるとは断言できない。だから認める理由がない。

コメント→
もちろん、様々な不確定要素があるので、必ず安定継承を
確保できるとは断言できない。
だが少なくとも、側室を前提とした非嫡出・非嫡系による
継承可能性が排除された条件下では、女性・女系天皇を認めないよりも
認める方が“遥かに安定化”するし、もし認めなけば早晩、
行き詰まるのは目に見えている。

仮に、大学進学を目指す劣等生で、
「受験勉強しなければ合格できないと言うが、受験勉強したら
必ず合格できるとは断言できない」と言い張って、
受験勉強を全く放棄する者がいたら、彼は本気で大学進学を望んでいないか、
大学進学に必要な最低限の思考力が欠けているか、そのどちらかだろう。

〇その3
旧宮家系国民男性が養子縁組で皇族になるのは憲法が禁じる
「門地(家柄)による差別」だと言うが、これまでも国民女性が婚姻によって
普通に皇族になっているではないか。だから問題はない。

コメント→
改めて言うまでもなく、国民が何らかの手続き(婚姻・養子縁組)を経て
皇族になることが、それだけで「門地による差別」に該当するのではない。
そうではなく、対象となる国民が“特定の血統・家柄”(例えば旧宮家系)に限定され、
それ以外の国民が血統・家柄を理由に予め“除外”されることこそが、
まさに「門地による差別」に当たる。
そこを“すり替え”てはならない。

婚姻の対象者は、明治の皇室典範とは異なり、
現行制度では何ら限定されていない。
だから当然、問題視されない。

一方、養子縁組プランでは、もし婚姻の場合と同じように対象者を
“限定しない”制度にすると、皇統に属さない男性が宮家を継承し、
皇位を継承する可能性も生まれる。それは勿論、皇統の断絶(!)を意味する。
よって、同プランにおいて“限定”は絶対に不可欠なので、
「門地による差別」に該当することを避けられない。

上記の子供騙しな言い分を聞いて、そのまま納得する人は恐らく少ないだろう。
しかし、不審に思いながら上手く整理できないケースもあるのではないかと思い、
わざわざ取り上げるのは大人げないと感じつつ、簡単な頭の体操としてコメントしてみた。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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