皇位の安定継承の先延ばしを企てる政府は
旧宮家系男性の「養子縁組」プランを皇族数の確保策の
一つとして持ち出した。しかし、これは憲法が禁じた「門地(家柄)による差別」に該当する、
との批判が広がっている。これに対して、保守系の憲法学者の百地章氏は、
有識者会議のヒアリングで「非常に難しい問題」
「法理論的には少しハードルがあるかもしれない」と、
それが無理筋であることを
率直に認めながら、旧宮家系男性は「“潜在的に”皇位継承権を持っておられる」
「一般国民とは“やや違った”立場にいらっしゃる方々であるから、
“特別な扱い”がなされても良いのではないか」との、
苦しい弁明を試みておられた(令和3年5月10日)。しかし、それは皇室と国民の間に新しく“別の身分”を認めることを意味する。
だから、憲法(第14条第2項)が禁じた「貴族」制を創設するに等しい。
説得力を持たない議論と言わねばならない。拙著『「女性天皇」の成立』(67~69ページ)でも
少し立ち入って批判した。新しい釈明
同氏はその後、私の批判を受け入れて下さったのか、
それともご自身で無理を悟られたのか、とにかく、
前説は取り下げられたらしく、先頃、別の釈明を試みられた
(産経新聞1月21日付)。新しい養子縁組プラン擁護論の根拠は2点。
その1は、
「もし国が旧宮家の方々に対してのみ特権を与えたりすれば
『門地による差別』に当たる(これは前説の撤回だろう―引用者)。
しかし皇室が特例として旧宮家から何人かの養子を迎えるのは、
憲法14条の例外と考えられないか」
というもの(少し自信が無さそう)。しかしこれは、皇室が自ら“特例として”国民の間に
「門地による差別」を敢えて持ち込む(!)ことになる。
皇室の方々ご自身には憲法第1章が優先的に適用されるにしても、
それを根拠に同第3章が国民に保障している権利(ここでは平等権)を
侵害することまで許されると考えるのは、とても無理だし、
ハッキリ言えば危険な発想だろう。合理的区別か、不当な差別か
その2は、
「憲法第1章の定める天皇制度を守り、皇室典範第1条にいう
『皇統に属する男系の男子』を確保するためとの理由で
旧宮家の男系男子を養子に迎えるのは『合理的区別』に当たり、
『差別』とはいえない」
というもの。まず、2つの根拠が矛盾していることに、
ご本人に気付いておられるのか、どうか。「国が」後者の制度を設けることは
「旧宮家の方々に対してのみ特権を与え」ることになるから、
前者の意見がもし正しければ「『門地による差別』に当たる」
と自ら認めておられることになる。更に「合理的区別」は、これまで判例や学説が積み重ねられて来たように、
それが“真にやむを得ない”ものに限られ、制度の“目的と手段の適合性”も
厳しく審査されなければ、“国民平等”の原則が骨抜きになってしまう。この場合、憲法に抵触しないで「世襲」制を維持する方策が他にあり得る
(=“真にやむを得ない”と言えない)一方、養子縁組プランでは
(有識者会議の報告書も認める通り)皇位の安定継承が望み難く、
世襲制の維持を保障しない(=“目的と手段の適合性”を欠く)以上、
「合理的区別」の不当な拡大適用と見なさざるを得ない。よって、百地氏の新見解も、残念ながら以前の説明と同じく、
無理な立論という結論になる。
その後の政府側の説明の仕方(と言うより正確には無回答ぶり)を見ても、
今のところ百地氏のロジックを採用する気配はなさそうだ。追記
「プレジデントオンライン」での拙稿公開は1月29日だった。
間違った告知をしてしまい、申し訳ない。
この記事は同日、Yahoo!にもアップされている。https://president.jp/articles/-/54076
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