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高森明勅
2021.10.22 13:12皇統問題

天皇・皇室を巡る制度を支えようとする「精神」が失われたら?

かつて、上皇陛下がご譲位を希望される
お気持ちが明らかになった時、保守系の知識人の中に、
あろうことかそれに公然と反対する者らがいた。
もし、ご本人のお気持ちで天皇の地位を退くことが
可能になったら、天皇・皇室を巡る制度が根幹から揺らいでしまう、
というのがその理由だった。

これは、皇室の方々への根本的な不信感を
前提とした考え方と言う他ない。
非礼・不敬この上ない。
しかも、当事者のお気持ちを無視して、強制的に
その地位に縛り付けておくことができる、
という非人道的な発想に基づく。呆れ返った話だ。

《エスプリ・ドゥ・コール》

こうした考え方に対して、憲法学者の長谷部恭男氏が、
以下のような言及をされている(「奥平康弘『「万世一系」の
研究』〔上〕解説」)。

「天皇制および皇室制度を持続的に支えようとする
皇族に共有される精神、つまりエスプリ・ドゥ・コールが
失われれば、退位の自由を含めた
『(皇室からの)脱出の自由』を否定したとしても、
現在の姿の天皇制および皇室制度を維持することはおぼつかない。

天皇が自発的に公務を放棄したら、摂政とされた皇族も
次々に公務を放棄したら、また皇族が世間から当然に期待される
行動や態度を示すことをやめたら、どうなるであろうか。…
逆に言えば、エスプリ・ドゥ・コールが維持されている限り、
『脱出の自由』をたとえ認めたとしても、皇族が次々と
脱出することはあり得ない。…

天皇に退位の自由を認めると、天皇制が立ち行かなくなる
リスクがあるという議論は、天皇制を支えるこうした
エスプリ・ドゥ・コールの意義を見失った議論のように思われる。

こうしたコミットメントが皇族に共有されている限りでは、
退位の自由を認めたからと言って、天皇制が
揺らぐことはないであろうし、逆に言えば、
退位の自由を認めると天皇制が揺らぐと主張する人々は、
皇室のメンバーが天皇制を真摯に支えようとして
いないのではないかと疑っている人々だということになる」と。

指摘の通りだろう。

《国民にも求められている》

繰り返される皇室への心ないバッシングは、
皇室の方々に共有されている、困難に耐えて天皇・皇室を巡る
制度を支え続けようとする高貴な精神を、深く傷つける以外の
何ものでもないだろう。

もし、天皇・皇室という存在がこれからも続いて行くことを
本当に願うのであれば、国民一人一人が、皇室の方々には
及ばぬまでも、真摯に天皇・皇室を巡る制度を(国民としての立場で)
支えようとする精神を、しっかりと共有する必要がある。
そのことを忘れてはならない。

追記
10月20日、ロイター通信のテレビ放送用のインタビューに応じた。
来週、眞子内親王殿下がご結婚された時に放送する
番組用の収録。
zoomのミーティング機能を使って、別々の場所にいる
インタビュアーと翻訳担当者の2人とやり取りし、
私が喋る模様を録画した映像を編集して、
世界各国のテレビ局に配信するようだ。
2人とも日本語が上手なので、気楽に応答できた。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/blog

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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