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笹幸恵
2021.8.16 23:42日々の出来事

「野戦病院」って何のこと?

モーニングショーの玉川徹や東京都医師会の
尾崎治夫が今朝言っていた「野戦病院」、
数日前からやたらこの言葉が使われ始めているんだね。
なんだか比喩として使うにしても、
あまりに薄っぺらくて鼻で笑うくらいしかできない。

本人たちは悲壮感に酔いまくって、
この期に及んでは野戦病院の設置しかない、
と思いこんでいるのかもしれないが、
あなたがたのイメージしている野戦病院って、
そもそも臨時の入院施設でしょ?
野戦病院って、戦闘している地域で開設されるもんです。
日本は今、戦場にはなっていません。
弾は飛んできません。
空襲もありません。
艦砲射撃もありません。
平時です。
だから普通に、臨時の入院施設と言えばよろしい。

東京都の「しょうけい館」に行ってみなさい。
野戦病院のジオラマがあるから。
これ見たら、へたに何かを野戦病院にたとえる
ことなんか、ちょっとできない。
道義的にできない、というのではない。
凄まじすぎるので、現代日本にたとえられるものが
がちょっと思いつかないのだ。

野戦病院は、満足な治療も受けられず放置され、
入ったら二度と出てこられない墓場というイメージで
語られることが多い。
玉川も尾崎も、それを知らないで言っているのかな。
だとしたらその無知っぷりに驚く。
それとも知っていて、自分たちの悲壮感を満足させる
ためだけに「野戦病院」を連呼しているのだろうか。
それならただ恐怖と悲壮感のお祭り騒ぎでしかない。

「我々には臨時の入院施設が必要だ!」
「我々には野戦病院が必要だ!」

悲壮感が漂うのは、圧倒的に後者だね。

言葉を弄ぶことができる、それ自体が、
コロナ重症者なんか他人事だと言っているのに等しい。

言葉があまりに軽んじられている。
私なら、コロナ対策のための臨時の入院施設を
野戦病院だなんて、大仰どころか大ボラに近いので、
恥ずかしくてとても口にできません。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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