日本国憲法の正当性・有効性を説明する最も有力な
学説とされて来た「8月革命説」。
それが説得力を失った現在、それに代わる見方はどのようなものか。
有力な学説は3つ。①憲法改正に法的限界はないとする「帝国憲法改正説」(佐々木惣一)。
②被占領下の帝国議会での審議過程で、国民主権が次第に
確立したとする「段階的主権顕現説」(佐藤幸治)
③本来は瑕疵のある制定行為だったが、サンフランシスコ講和条約の
発効による主権回復後、国民は自らの自主的な判断によって、
「占領法規」を「憲法」として承認し、追認したとする「法定追認説」
(長尾龍一・大石眞)。政府の立場は①だ。
しかし、②も含めて、被占領下の実情を考えると、
フィクション抜きに果たして成立し得るのか。
例えば、次のような指摘がある。「総司令部(GHQ)による完全な裏統制や極東委員会
(連合国が設けた日本の占領管理の為の最高政策決定機関、
GHQより上位にあった)の介入などがあり…日本側の自由な意思は
ありえなかったことなどを思うと、それ(②)は成り立ちえないと
考えられる」(大石眞『憲法講義Ⅰ〔第2版〕』)と。以上の諸説の中では、③が比較的説得力を持つように見える。
但し、③に対して「平和条約(サンフランシスコ講和条約)締結に
臨んだ政府の正統性の根拠は何であったのか」
(佐藤幸治『日本国憲法論』)という問題も指摘されている。他に、以下のような見解もある。
④ポツダム宣言の受諾は、帝国憲法31条に基づく非常大権の
発動によるもので、日本国憲法も同大権による「暫定基本法」として
制定されたから、サンフランシスコ講和条約の発効による主権回復後は、
非常大権は解除され、同大権を根拠とする日本国憲法も本来、
帝国憲法に抵触しない範囲でのみ効力を持ち得るに過ぎない
(小森義峯『〔改訂版〕日本憲法大綱』)。⑤「日本国憲法は、大日本帝国憲法の改正権の限界を超えているが、
法的には、この改正権の行為を審査する機関は、大日本帝国憲法には
存在しなかった。
…大日本帝国憲法に日本国憲法の有効性を審査できる法的な機関が
存在しなかった以上、日本国憲法は、これを有効とするより外にない。その場合にも、法哲学的あるいは政治学的には、日本国憲法無効論を
唱えることは、可能である」(青山武憲『新訂 憲法』)⑥「現行の憲法典は無効であるなどと考えることはできない。
現実の憲法は、それを支持する意思と社会的諸力が国家に
存することによって効力を維持するもので、その生誕事情によって
効力を決せられるものではないからである」
(小嶋和司・大石眞『憲法概観〔第6版〕』)等。憲法学の外側から眺めると、日本国憲法の有効性を巡る議論は、
意外なほど統一を欠き、脆弱なのに驚く。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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