東日本大震災当日の夜。
想像を絶する被害を受けた岩手県から電話を貰った。
私は同月下旬に同県での講演を予定していた。
その主催者の事務局の方だった。
およそ以下のような内容。「こちらの勝手な都合で申し訳ありませんが、
予定していた講演は当面、延期させて戴けないでしょうか。
講演会場に使うつもりだった施設も、天井が落下して
使えなくなっています。
事務局のメンバー同士もまだ連絡が取り合えていません。
こうした状況ですので、しばらく延期させて下さい。
但し、これはあくまでも延期です。
先生のご講演は必ず行わせて戴くつもりです。
なので、こちらの準備が整い次第、改めて日程の調整を
させて下さい。宜しくお願い致します」と。思いがけないタイミングで、丁重なお電話を戴いて、
驚き、恐縮した。
後に判明した死者・行方不明者の数は、岩手県内だけで
合わせて6千人に近い。
そんな大惨事の最中(さなか)でも、対処すべき日常業務の
一つ一つを、決して忽(ゆるが)せにせず、丁寧、確実に
処理しようされる誠実な態度に、頭が下がった。人の真価は、いざ!という時にこそ表れる、と言う。
まさにその通りと深く感じるものがあった。
同月中・下旬には他にも都内を含め何件か、講演や
研修のスケジュールが入っていた。
しかし、さすがにここまで迅速な対応は無かった。丁度1年後の翌年3月下旬、約束通り同県で講演を行った。
その講演では、いつも以上に熱意が籠(こも)ったのは言う迄もない。
講演の冒頭、震災当日に戴いた懇篤なお電話のことに触れた。
あの時のことは今も思い出す。【高森明勅公式サイト】
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