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高森明勅
2021.2.28 06:00皇統問題

東久邇宮の「臣籍降下」論

以前から、旧宮家系国民男性が新たに皇族の身分(皇籍)を
取得することを可能にする制度改正が、一部で提案されている。
多くの難題を抱えるが、「男系」限定をいつまでも維持しようと
考えている人々が期待しているのは、東久邇(ひがしくに)家の
男性のようだ。

「女系」では、明治天皇・昭和天皇とも繋(つな)がり、
現在の直系の血筋と血縁的に近い、というのが理由らしいから、
いささか驚く。
ご都合主義、ダブルスタンダードという印象を抱いてしまう。
「女系」で言えば、女性天皇や女性宮家のお子様の方が、
血縁的に遥かに近くなることは、改めて言う迄もない。
しかし、東久邇家については、その第1代・稔彦(なるひこ)王が
被占領下に率先して、自発的な「臣籍降下(しんせきこうか、皇籍離脱)」論
を唱えられた事実(昭和20年11月10日)が、広く知られているはずだ。
しかも、それは急な思い付きではなかった。

大正末年の「稔彦王帰国拒否事件」の際も、既に臣籍降下の希望を
述べておられた(この時は、稔彦王の余りにも常軌を逸した
行動ぶりに、宮中首脳部が“懲戒的な”臣籍降下がを検討した局面もあった)。
稔彦王は以下のような考え方を持っておられた。

「伏見宮系の傍系皇族は現在の直系とは血縁が遥かに遠く、
皇室と親族とは言いがたいから、全て臣籍降下するのが当然である」
(「倉富勇三郎日記」昭和2年1月31日条より意訳)と。

東久邇宮稔彦王が、「皇室とは親族とも云(い)ひ難く」(原文のまま)と
言われた“伏見宮系の傍系皇族”とは、まさに被占領下に皇籍離脱を
余儀なくされた11宮家、いわゆる「旧宮家」に該当する。
そこから更に世代を隔てて、血縁のより離れたご子孫を、
一般国民の仲間入りをされて75年近くも経過して、
今更(ご結婚という人生の一大事も介さないで)“そのまま”皇族の身分を
与えるような方策に対して、もし稔彦王がご存命ならば、
一体どのようなご感想を持たれるだろうか。

想像するのは難しくあるまい。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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