天皇誕生日を控え、ロシア国営通信社「スプートニク」から取材を受けた。
昨年を振り返って、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が
皇室のご活動にどのような影響を与えたか、又今後の見通しはどうか、
という質問だ。およそ以下のような説明をした。
天皇の国内向けのお務めは、大きく分類して3種類に整理できる。
①憲法に規定されている国事行為(その中には外交文書の認証や
外国大使・公使の接受なども含まれるが)。
②国民の思いに寄り添われること。
③皇室の神聖な祭祀に携われること。これらのうち、①と③は新型コロナ禍の影響はさほど大きくない。
これに対して、②は国民と直接お会いになる行事の多くが中止されるなど、
大幅な縮小を余儀なくされた。
そもそも、上皇陛下が天皇の地位を次の世代に譲ろうと
お考えになった最大の動機は、ご高齢になられて、②について「全身全霊」で
取り組むのが困難になると予想されたことだった。
天皇陛下は、その上皇陛下のお考えを誰よりも深く理解しておられる。
又、ご自身も以前から、国民と苦楽を共にすることこそ、
天皇の大切な役割であるとお考えになられて来た。従って、②が著しく制限されている現状を、
とても残念に思っておられるに違いない。
勿論(もちろん)、制約された条件下でも、オンラインなどを活用して、
国民の声をお聴きになったり、ご自身のお気持ちをお伝え下さったりして、
人々をお励まし下さっている(新年の両陛下お揃いでのビデオメッセージは
記憶に新しい)。更に、様々な関係者を直接、御所に招かれ、国民が直面している
困難な現実を詳しくお知り戴く一方、陛下から困難に立ち向かう
努力に対して、丁寧に感謝や敬意をお伝えになる機会も、
設けて下さっている。
新型コロナ禍によって制限されざるを得ない②についても、
最大限のお取り組みを重ねて来られたのが実情だ。
今後の予測は、新型コロナ禍の影響がどのように推移するか
見通せない段階では、確かな回答は出来ない。もとより、①と③については、今後も大きな支障は生じないだろう。
問題は、その影響をストレートに受ける②だ。
新型コロナ禍の影響が小さくなれば、天皇陛下が元々望んでおられた
国民との触れ合いが回復し、より深まるはずだ。
しかし、それが長引けば、残念ながらオンラインや新しい工夫によって、
代替的なやり方を続けられる他ないだろう。
ビデオメッセージの活用が拡大される可能性もある。天皇陛下が直接、各種の行事などにお出ましになり、
様々な人々とお会いになることで、催しの意義や各地の現状、
解決を求められている問題などに、改めて幅広い関心が寄せられる。
人々の努力や功績、或いは直面している苦難などにも、
光が当てられることになる、という側面もある。②への制約が続いていることを、最も歯痒(がゆ)く
思っておられるのは、勿論(もちろん)、天皇陛下ご自身だろう。【高森明勅公式サイト】
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