新型コロナウイルス感染症。
わが国における陽性者、死者の数は、欧米各国に比べて遥かに少ない
(アメリカの前者は30倍以上、後者は40倍以上、欧州主要国で
前者20倍前後、後者40倍以上)。
にも拘(かかわ)らず、それらの国で医療崩壊は起きていない。一方、日本では緊急事態宣言が発令された大きな動機が、
“医療崩壊の恐れがある”ということだった
(「既に崩壊している」との言説も)。これは奇妙ではないか。わが国の医療資源が、各国に比べて“何十分の一”程度の、
極端に貧しい状態なら理解できる。
しかし、全くそのような状態ではない。
むしろ、その逆と言って良い。ハード面では、人口当たりの病床保有数では世界一
(1000人当たり13.0床)。
急性期病床数でもOECD(経済協力開発機構)加盟国
(34ヵ国の先進諸国)の平均3.7床の倍以上の7.8床。
ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)はアメリカ、ドイツに
及ばないものの、イタリア、フランスを上回っている(10万人当たり13.5)。
CT、MRIの人口100万人当たりの保有台数は、2位を大きく引き離して世界一。ソフト面では、医師の数はOECD加盟国中の28位(1000人当たり2.5人)
と低い。しかし、看護師の数は8位(1000人当たり11.8人)という位置。
陽性者の圧倒的な少なさを考えると、医師の少なさも、医療崩壊の
原因になるレベルではない。ハード・ソフト共に、医療崩壊を恐れる状態とは、ほど遠い。
にも拘らず、日本医師会関係者をはじめ、医療崩壊の危機が
声高に叫ばれている。
その背景について、医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏が
興味深いレポートを発表しておられる(「文藝春秋」2月号)。文中、昨年12月に、北海道の旭川市で病床数も看護師も足りず、
医療崩壊だと言われた事例を取り上げておられる。
「世界一病床の多い日本の中でも、北海道は人口あたり病床数が非常に
多い地域なのだ。その北海道の中でも旭川は病床の多い地区で、500床クラスの大病院が3つ、
300床クラスの病院が2つ存在している。
…12月16日時点の(北海道での)病床の使用状況は、
重症者向けに確保した182のうち、実際に入院している重症者は
わずか34人である。病床使用率は19%だ。
北海道全体で言えば、喫緊で『医療崩壊』のレベルにあるとは考えにくい。
この34人がすべて旭川に集中しているのであれば、旭川は大変かもしれない。
(文藝春秋)編集部が問い合わせたところ、旭川市は実数を回答しなかったが、
札幌市は19人という回答だったので、最大でも15人程度と推定される。そもそも北海道全体では前述のように重症患者の病床使用率は
19%なのだから、患者の少ない他地域から看護師などの
医療スタッフを旭川に回せば、全て解決する話にも思える。
また近隣の県をみると、たとえば秋田県では12月16日時点で
軽症者を含むコロナ対策確保病床222床のうち、実際に
入院しているのはわずか3名。
重症者用に確保しているICU24床に入院している患者はゼロ。
1人もいないのだ。これを見る限り、旭川でベッドが足りないなら、
秋田県に患者を搬送すればいいのでは? とも思えるし、
仮に患者の状態により搬送が困難なのであれば、医療スタッフが
秋田から旭川に移動してもいいのである。
さらに言えば、全国の各都道府県は重症患者用ICU病床を
それぞれ確保しているが、12月16日時点で重症患者ゼロ、
つまりICUに1人も入院していない都道府県はなんと計8つもある。全国のICU病床使用率を単純計算すれば27%だ。
…先進諸外国は当然…(日本とは異なり)患者搬送については、
地域をまたぐどころか、医療資源の余裕のある地域へ国境を
またいで搬送する例も珍しくない」医療崩壊が叫ばれる原因として、日本の医療における
「致命的な機動性の欠如」が指摘されている。
では何故、機動性が欠如してしまうのか。
その構造的背景の解明も同レポートではなされている。
事態の一側面に光を当てた、貴重な問題提起だろう
(但し、指定感染症〔2類相当以上〕見直しの問題には
触れておられない)。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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