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高森明勅
2020.12.27 06:00皇室

皇室法を知らずに制度論?

評論家の八幡和郎氏。
東大法学部を卒業され、通産省(当時)の官僚を経て、
現在は徳島文理大学の教授をされている。

皇室関連の著書も多数あるようだ。
残念ながら、私はほとんど読んでいない。
今回、ある雑誌(『Hanada』2月号)に載った文章をチラリと覗(のぞ)いて、
驚いた。

どうやら、皇室典範や皇室経済法などを読まないまま、皇室関連の制度論に
堂々と論及さているようだ。「いま、皇室典範では離婚がほとんど想定されて
いないが、眞子様の問題を離れても、皇族が離婚したらどうなるとか、
子供の扱いや経済的問題を決めておいた方がいいし、皇籍離脱をされた
皇族が離婚や死別されたときの扱いも、制度的に整備しておいた方がいい」
と書いてある。

「ほとんど想定されていない」というのは曖昧な言い方だ。
しかし、ここで触れられた諸点については、皇室典範11~15条、
皇室経済法6条、「皇族の身分を離れた者及び皇族となった者の戸籍に
関する法律」などに、ちゃんと規定がある。

普通なら、皇族方のご離婚を予(あらかじ)め想定するのは
非礼この上ない。
だが、法律に手抜かりがあってはならない。
だから、とっくに「制度的に整備」されている。
同氏が、せめて皇室典範だけでも斜め読みされていたら、
こんな文章は書けなかったはずだ。

又、文中に「(1年間の支出は)独立家計を持たない皇族の女性が6百万円ほど」とある。
「独立家計を持たない皇族の女性」という大雑把な捉え方自体が、皇室経済法を見ていない
証拠。同じ、独立の生計(同経済法では「家計」でなく「生計」)を営まれない「皇族の女性」
でも、①親王妃、②王妃、③成年に達した内親王、④未成年の内親王、⑤成年に達した女王、
⑥未成年の女王では、それぞれ金額が違う。

なので、とても一括して扱えない。
皇室経済法と同施行法の条文を突き合わせると、簡単な割り算さえ出来れば、
誰でも直ちに①~⑥それぞれの金額を導くことが可能だ。「6百万円ほど」という
表現は漠然としているが、⑤の金額に近い。
どこかで聞き齧(かじ)った数字だろうか。
私は、皇室典範や皇室経済法などを読んでいないことを、それだけで非難する
つもりはない(恐らく詳しく読んでいない人が殆〔ほとん〕どだろう)。

そうではなく、それら基本的な法律にすら目を通さないで、こうしたテーマについて、
無責任に言及する態度に、首を傾(かし)げたくなるだけだ。
それにしても、こうした初歩的なミスがあれば、掲載誌そのものの信頼にも
関わるだろうに、担当編集者や校閲者は、チェックしなかったのだろうか。
いずれにせよ、いやしくも皇室に関するテーマを取り上げる以上、
より慎重かつ丁寧でありたいものだ。自戒したい。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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