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高森明勅
2020.12.16 06:00皇統問題

「聖断」は既に下っている

政府が、皇位の安定継承の在り方を検討する有識者会議の
設置を検討する、との報道があった。

有識者会議を設置するか、どうかは二義的な問題。
当初の「皇女」制度案が“取り下げ”られたらしいことが、重要だ。

又、政府が先延ばしを続けて来たのを改めて、
皇室典範特例法の附帯決議が求めた重要課題(皇位の安定継承と女性宮家の創設)に、
やっと本腰を入れて取り組む姿勢が見えたことこそ、注目点だろう。

先日の私らの緊急シンポジウムで、会場から
「天皇陛下の聖断を仰ぐべきではないか?」との質問があった。
皇位継承の在り方について、基本的に陛下ご自身のお考えが
最優先されるべきなのは、当然だろう。

しかし一方、皇室典範改正の“具体的な”在り方について、
陛下に公然とお考えを示して戴くことは、憲法上、出来ない。

何故なら、典範の改正はもっぱら国会マターとされている(2条)ので、
これに直接、関わられるのは、憲法が禁じている国政権能(4条)に
当たるからだ。
しかも、「聖断」は(憲法に抵触しない形で)とっくに下されている、
と受け止めるべきだろう。

平成28年8月8日、上皇陛下は国民へのビデオメッセージの中で、
以下のように仰(おっしゃ)っていた。

「このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ、
これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえて
この国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが途切れることなく、
安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちを
お話しいたしました」と。

陛下は「皇室がどのような時にも国民と共にあり」
「象徴天皇の務めが途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」
とお述べになっておられた。

これは、皇位の安定継承と皇室の存続を切実に願われるお気持ちの、
率直なご表明以外の何ものでもない。
その上で、国民が衆知を集めて、最善の方策を速やかに決定し、
実施するよう、陛下は“バトン”を国民に渡された。

にも拘(かかわ)らず、徒(いたずら)に躊躇逡巡(ちゅうちょしゅんじゅん)
するばかりか、改めて聖断をお願いするなど、国民の責任を放棄する
「甘え」と言う他ない。

側室が不在で、非嫡出による継承が排除された条件下において、
皇位の安定継承を可能にする具体的な方策は、無用なノスタルジーを排し、
理性的・論理的に考えれば、自ずと決まって来る。答えはもう出ている。

政府も、明らかに“正解”を理解しているようにしか、見えない。
だけでなく、既に国民の多数がそれを支持している事実がある。
だから、真に求められているのは、政治(政府・国会)の“当たり前”の
判断だけだ。

あとは、国民がそれをどれだけ後押し出来るか。
もう一度、言う。
聖断は既に下っているのだ。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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