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高森明勅
2020.6.12 06:00皇室

天皇と鉢合わせした泥棒

皇室の長い歴史の中には思いも寄らないことが起こっている。
例えば、天皇ご自身が泥棒と“鉢合わせ”をされたり、とか。
にわかに信じがたい話ながら、国家の正式な歴史書(正史)であり、
朝廷の公的な記録を元に編纂された『続(しょく)日本後紀』の
記事に出てくるので、確かな事実だろう。

承和(じょうわ)4年(837)12月5日の出来事。
当時の天皇は54代・仁明(にんみょう)天皇だった。

この日の夜、天皇の日常のお住まいである平安京内裏の清涼殿
(せいりょうでん)に、女性の盗賊が2人、侵入した。
それをたまたま天皇ご自身が見付けられた。
『続日本後紀』には「天皇愕然(がくぜん)」と表記してある。
さぞや驚かれたに違いない。

天皇は直ちに側近の蔵人(くろうど)らに命じて、
宿直の者に捕らえさせた。
しかし、逮捕できたのは1人だけ。
もう1人はまんまと逃げおおせたという。
まだ古代王朝が衰えを見せていない時代だった。
にも拘らず、天皇のお住まいがいかに無防備だったかが分かる。
勿論、不祥事には違いないものの、平和な国柄を偲(しの)ばせる
エピソードだろう。

念の為に井筒清次氏編著の『天皇史年表』を覗くと、
この記事もしっかり収録していた。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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