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高森明勅
2020.3.25 00:12皇室

産経新聞の「僭越」

「僭越」という言葉がある。

「自分の地位・立場などを越えて、出過ぎたことをすること」
(明鏡国語辞典)だ。

産経新聞(3月24日付)に載った論説副委員長、
佐々木類氏の文章を読んで、この言葉を思い浮かべた。
その趣旨は、国内の新型肺炎の感染拡大に対して、
「天皇陛下のお言葉を聞きたい」ということ。
しかも、上皇陛下を引き合いに出して。

何様かと思う。
天皇陛下が常に、私共国民に深くお心をお寄せ下さっていることは、
これまでのなさりようから明らかではないか。
新型肺炎についても、先頃のお誕生日に際しての記者会見で、
特に言及しておられた。
感染拡大への対策は、政府・国会・国民が一丸となって
取り組むべきことで、メディアも勿論、相応の責任を分担する
ことが求められる。

それらが、果たして十全になされているか、どうか。
それこそが、問われなければならないはずだ。
にも拘らず、政府を含む国民自身の側の責任を銘記するよりも、
早く国民を励まして欲しい、と陛下にオネダリする姿勢は、
本末転倒ではないか。
そんな甘ったれた根性では、「国難に立ち向かう」(同記事)
もへったくれもあるまい。

天皇・皇室への依存心を肥大化させて、憲法に主権者と
位置付けられた国民としての責任をなおざりにするようでは、
情けない。
天皇陛下の「おことば」は、それが象徴としての公的行為
である場合、陛下ご自身の主体性が最大限、尊重されねば
ならない。

いつ、どのような“おことば”を下さるかは、
当然ながら全て天皇陛下にお決め戴くべきことだ。
新聞記者が僭越にもあれこれ指図(さしず)してよい領域ではない。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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