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倉持麟太郎
2018.11.23 22:18

元気が出るクラシック②

元気が出るクラシックシリーズ、もうちょっとほんとに元気がでるやつ教えろよ、ということで、また書きます。

最近は深く考えさせられるような演奏よりも、「いやー明日からもがんばろ!」みたいな演奏を好んでいる。

で、やっぱりラトル。
近年のラトルの録音でベストと思うものを2枚紹介したい。
まずは過去から遡ろう、ラトルが音楽史上燦然と輝く業績はやはりベルリンフィルだろう。ベルリンフィルとの録音は、前回取り上げたくるみ割りは良いが、もうひとつ紹介したいのが、ブラームスの交響曲全集だ(EMI、2008年録音)。
楽曲理解はすさまじく細かく、細かすぎて情報量多すぎて深刻な音楽がまったく深刻にならないところがラトルにはあるのだが、ブラームスは、違う。おそらく、ブラームス自身が細かくて嫌味で皮肉屋でへそが6回くらいグルグル巻いてるからかもしれない。ラトルのアプローチが面白いくらいにはまっているのだ。音楽は全体と部分でできている。ピアノを想像してもらえばわかるが、鍵盤の同じ位置の「ド」は何回弾いても同じ「ド」なのに、曲の中のフレーズやパッセージの中で、文脈の中で奏でられると同じ「ド」も悲しく聞こえたり喜びの歌に聞こえたりする。
この、部分を分断しすぎると楽曲としてバラバラになるのだが、ブラームスはそうならない、分裂的に細かいフレーズに魂をこめている、いやらしいまでに。「言いたいこと多すぎ」である。これにいちいち付き合って、器楽的に最高レベルで代弁してあげたのがラトルの演奏だ。しかも、ラトルはくどい人間ではないので、オーケストラの技術もあいまって、そのブラームスのうじうじネチネチ感を颯爽としたドライブ感で吹き飛ばす!ブラームスの暑苦しさが苦手なムキにも、受け入れられる演奏である。
2番の四楽章や3番の四楽章のボリュームのコントロールは他のどのコンビにもできないだろう。しかも、最後はかならず大団円で救いをくれる、再度いうが、ラトルよ、ありがとう。

ラトルはベルリンフィルとの関係を円満に解消し、彼の故郷であるロンドン交響楽団に着任した。これがまた、我々音楽ファンには幸福な出会いだった。
ラトル・ベルリンフィルがあそこまでの高みに到達していたのに、ラトルは退任が決まった後のドキュメンタリーで「私と私の音楽を守るために辞めるのです」といっていたのが本当に印象的だった。闘い続け、傷つき、このままでは自分らしく生きれないと悟ったのだ。そう、外から見れば他の追随を許さない最高級の演奏をしていたのに。
そんなラトルが新たに手に入れた楽団がロンドン交響楽団だった。ロンドンと演奏するラトルはとにかく幸せそうだ。こちらが幸せになるくらい幸せそうだ。
実際の演奏会の場にも立ち会ったが、ラトルの眉毛の動きや小指の微妙な動きもすべてそれぞれの楽器に反映されていた。
そんなラトル&ロンドン交響楽団、何枚かCDがあるが、ペレアスとメリザンド、ハイドンのオーケストラルジャーニー、コンセプトは面白いが、期待外れだった。そこに、とうとうきました、たまらんやつが。
それが、バーンスタイン生誕100年を記念したバーンスタインのミュージカル「ワンダフルタウン」である(LSO自主製作、2017年録音)。
オハイオからニューヨークに夢を追ってでてきた姉妹をめぐる物語。古き良きアメリカそのものといった歌と管弦楽、とにかくだまされたと思って聴いてほしい、元気が出る。こういう良心があの新大陸にはあったし人間にもあったということが思い出されつつ、とにかく元気が出る。
ロンドン交響楽団の自慢のトランペットが縦横無尽に鳴り、パーカッション出身のラトルのリズムセクションの躍動。また、ラトルの持つ歌心がそれぞれの歌の魂を揺さぶり照らし出す。何より、「音楽ってさ、聴いてたら体動かしたくなるしさ、生きてることを賛美する言語なんじゃないの?とにかく踊ろうぜ」的な楽観的な音楽に、聴き手が救われる。

ラトルはもう当分日本にはこないと公言している。とても不幸なことだ。
それもよくわかる、マーケットとしては“金になる”としても、日本には「個」がない。オーケストラの醍醐味は、独立したバラバラの「個」が同じ曲を合奏することにある。つまり、「個」があるからこそ「合わせる」という概念が生まれるのだ。日本は個などなく、ただ合奏することを自己目的化している。だから、音楽にならない。
日本には日本でクラシックをやる意味や良さがあるはずだ。それもわかり始めている。それも書いていこう。

でもとりあえずは、ラトルはんぱないから、しかも、芸術家の旬て一瞬だから、今だよ、ラトルを聞くなら今。何をおいても聴きに行くべき、数少ない演奏家だ。

倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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