倉持師範の熱のこもったブログが非常に勉強になっています。
語数が少なく文言が抽象的な日本国憲法を、解釈で埋める役割を
担ってきたという「内閣法制局」。
私はこの機関そのものにも、大きな疑念を持っています。
内閣法制局は『法の番人』と呼ばれてきたので、素直な私はずっと
良心的な役所なんだと思い込んでいました。
新しい法律が作られる時に、憲法や法律との齟齬がないかどうかを
厳密に調べ、文言をチェックする堅物。
この内閣法制局が、法律制定に対して緻密な仕事をしてきたから、
日本は、違憲判決そのものが少ないのだとも聞きます。
最近本で読んだのですが、内閣法制局、もともとは伊藤博文が
設置した「法制局」が起源だとか。
近代国家として、時の為政者によって法令が恣意的に運用される
ことのないよう「法の支配」の貫徹に粉骨砕身してきた、と。
歴代長官には、生前退位の議論でよく名前の挙がった井上毅、
参事官には美濃部達吉なども加わっており、実務面だけでなく、
《別格に権威ある役所》として機能してきたようです。
この精神は、時代が昭和になっても受け継がれていて、
元内閣法制局長官の高辻正巳氏はこのように述べています。
「内閣法制局の使命は、内閣が法律的な過誤をおかすことなく、
その施策を円満に遂行することができるようにする、というその一点
にある。
そうである以上、同局の法律上の意見の開陳は、法律的良心により
是なりと信ずるところにしたがってすべきであって、
時の内閣の政策的意図に盲従し、何が政府にとって好都合であるか
という利害の見地に立ってその場をしのぐというような無節操な態度
をすべきではない。
そうであってこそ、内閣法制局に対する内閣の信任の基礎があり、
その意見の権威が保たれるというものであろう」(1972年・時の法令)
なるほど、内閣直属でありながら、“法の番人”として緊張感のある
役割を担おうとしてきたことが伝わってきます。
(とはいえ、自衛隊創設時に9条の解釈をねじ曲げていますが)
ところが、この数年「内閣法制局」にはろくなイメージがありません。
記憶に新しいのは天皇陛下の生前退位。
天皇陛下からのお言葉が公開されてまもなく、「内閣法制局など」なる
不可思議な方面から、生前退位には憲法改正が必要、という筋違いな
コメントが出されました。
が行われており、すでに
「生前退位の制度化に憲法改正は不要。皇室典範の改正で足りる」
という政府見解が表明されているのに、です。
その前が、大問題の集団的自衛権の行使容認。
歴代の内閣法制局長官は、まず法制局第一部長となって修行し、
つぎに次長となって法制局長官としての仕事を勉強し、心構えを養い、
そして長官に昇進するというルートが確立されていたそうですが、
2013年8月、安倍首相がこれを度外視。
過去の内閣法制局見解を、自分に都合よく解釈してくれる主義主張を
持つ「駐フランス大使」小松一郎氏を長官に抜擢。
内閣法制局とはまったく畑違いの小松氏は、いろいろと物議を醸し、
途中他界したものの、結果はご存知のとおり。
『法の番人』という権威ある称号に飾られてきたはずの機関が、
時の内閣の人事一発によって、いとも簡単にその思惑に盲従し、
憲法解釈をねじ曲げて、立憲主義を破壊する片棒を担いでしまう。
権力は、
それを、ここまで強烈に見せつけられてきておいて、
もうぼんやりとはしていられない。