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泉美木蘭
2017.2.19 07:58

不安の博覧会

きのうは店番で、夜中まで「不安」の話ばかりしていた。
経営不安、返済不安、将来不安、離婚不安、つきまとわれ不安、
60代から30代までが寄り集まって、不安の博覧会。

「借金200万? そのくらい大丈夫さ。俺なんか負債1億だよ?」

「1億借りられたんだから、それは大したものじゃないか。僕なんか
借してくれって言っても銀行が信用してくれないし、死ぬまで貧乏だ」

「独身なんだっけ?」

「そうだよ。結婚してたらますます貧乏だったね。今日はコンビニの
店員と『お箸は何膳いりますか?』『…一膳』としか会話してなくて。
さみしすぎてここ来ちゃったよ」

「でもさ、結婚して幸せだって人もいるけど、独身でないとやっていけ
ないような状態の人もいまはいっぱいいるわよね…」

「でも俺は銀行から返済を迫られる精神不安はあるけど、君みたいに
ストーカーに追われてる精神不安はないから、まだマシなんだよなあ」

「そのストーカーも、もっと仕事が忙しけりゃ思い詰める暇もなくなる
んだろうけど、要するに、ムダに時間があるんだよなあ」

「それはそうと、財布に金がない。悪いんだけどツケといて。じゃ!」

おおおおおーーい、待てえええーーー!

プレミアムフライデーなんて笑っちゃう。
時間があっても、お金がなくて、不安があるから、そうそう勢いつけて
街へ繰り出そう! って気持ちにならないのが普通の人だよ。
うちみたいな深夜2時まで営業のバーだって、23時半くらいになると、
時計を気にしはじめて「終電の時間だ」と言って帰り支度をはじめる人
のほうが多い。
タクシー代を払ってまで、遅くまで元気に飲んでいられないという心境
が普通なのだ。
休日はどうしているのかと聞くと、「家でYoutubeを見ながら缶ビール」
という感じの人がけっこういたりする。

3、4年くらい前までは、そんな中でもまだまだアドレナリンの出てい
る60代くらいの人たちがいて、若者を引っ張りまわす光景があったの
だけど、その人たちも「体調が悪くて…」「引退して引っ込もうと…」
という話をよく聞くようになった。
その少し下の世代の人たちと話すと、「バブルの頃はどんなに豪遊して
いたか」という思い出話に花の咲くことが多い。

終電後の時間帯に現れるのは、観光の外国人。
そして、店が暇で早閉めしてしまった同業のDJが顔を出したりする。

「豊かな週末」って、終業時間の問題じゃないと思う。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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