今年5月にマキノノゾミ演出、沢田研二主演の舞台『悪名』を観た。
開演後しばらくたっても、沢田研二が登場せず、不思議に思いながらの
観劇だった。
恰幅のよい着流し姿の「八尾の朝吉」役の男性は、勝新太郎のイメージに
寄せて役作りしたのか、迫力と情緒を兼ね備えた、渋くて粋で、芦谷雁之助
のような風情もある、初見の年配俳優だった。
マキノノゾミの劇団は、渋くて男臭い世界観を出すのが凄くうまいんだけど、
どちらかというと、「古き良きアメリカ」の舞台設定が多かったので、
こういう日本の男の情の世界をうまく演じる役者さんは意外だなあ、と。
しかし、ずいぶん演技がうまくて惹きつける人だなあ。声も凄くいいし・・・。
と、思っていたら、マキノノゾミらしい演出で、派手なライティングとともに、
大音量のロックが流れはじめ、着流し姿の朝吉が、スタンドマイクをびゅんと
回転させて持ち上げて、歌をうたいはじめたのである。
そこで、やっと気づいた。
「ジュ、ジュリーじゃないのおおおお!!!」
客席のあちこちで、驚いた様子で連れと耳打ちしあう姿が見えた。
私と同じく、そこでやっと朝吉=沢田研二だったと気づいたようだ。
たしかに、衝撃はすごかった。
イメージしてたジュリーとぜんぜんちがう! ちがいすぎる!
でも、舞台上で朝吉を演じる俳優・沢田研二は、めちゃくちゃに良かった。
当たり前だけど、歌はものすごくうまいし、セリフまわしも情感ある声が
とにかく心地よくて。
芝居も、笑いのとりかたも、アドリブ時のなにげない振る舞いも、
カッコのつけかたも、円熟していて最高だった。
子供のころ、黒柳徹子と久米宏の『ザ・ベストテン』で「TOKIO」を歌う姿を
見ていた世代の私は、そこまで熱狂的なジュリーファンじゃなかったけど、
この沢田研二が出る芝居なら、また観に来たいと思った。
キムタクが68歳になった時、こうなれるかな・・・なんて思いがちらりと頭に
浮かんだりもした。
「こんな姿を見せられたら若いころの夢が壊される・・・」と言う人もいたけど、
同じく昔から熱狂的なジュリーファンだったある女性は、太ったおじさまに
なったジュリーを見て、驚いたものの、
「ジュリー、幸せになれたんだ、よかった!」
と思ったらしい。
美青年として悲壮感漂うほど魅せてくれたジュリーも大好きだったけど、
時代が流れて、自在に楽しませてくれるいまのジュリーも大好きだ、って。