電車に乗っていると、
若いママに手をひかれた小さな男の子が乗り込んできた。
ハロウィンの催し物にでも参加したのだろう、
赤い角の生えたカチューシャをつけて、
黒いサテン地のマントを羽織り、
小さな手には、フェルト製の手作りステッキが
握りしめられていた。
「まあ、かわいらしいわねえ・・・」
「きゃーん、かわいい♪」
乗客の注目を一身に浴びて、
あどけないスター・ちびっこデビルは、
よいしょよいしょと座席によじのぼって座った。
ママは我が子の姿にすっかりご満悦の様子。
ちびっこデビルは、そんなママを見上げると、
「・・・はぁぁ」
物憂げな溜め息をひとつつき、
ステッキを放り出してカチューシャをはずし、
「ママ、ねー、マントとって!」とせがみ、
ちいさなブーツをポポイと脱ぎ棄てると、こう言った。
「もうやらないよ。ぼく、くたびれちゃうよ。はあ・・」
肩を落としてしょげかえるその姿は、
デパートの屋上で戦隊ヒーローショーの出番を終え、
控室でマスクをはずした瞬間の中年スーツアクター、
そのものであった。
こどもはつらいよ。