●選挙後の国会内の風景まで見通した投票を―このくにの「かたち(constitution)」を決める選挙
今回の衆議院選挙で、自民党は、高村正彦副総裁と、保岡興治憲法改正推進本部長が不出馬で政界引退するということである。高村副総裁といえば、安保法制では北側氏(公明党)とともに、与党協議含め論戦の矢面と調整の中心を担った。生前退位問題でも、法的な議論を一手に担い、与野党協議の最前線で交渉をし、法的論点について安倍総理(官邸)との調整や説得も、高村副総裁なしには不可能であった。高村氏は、引退後も「副総裁」の肩書で残るそうだが、いくら安倍首相が強調したところで、議員間の調整に走る、等の実働部隊としての動きは困難と見るのが自然だろう。
保岡氏は、今回の安倍9条加憲についての提案理由書の執筆まで担当され、いわゆる「憲法族」として、自民党の憲法論議を文字通り牽引していた人物である。
この、憲法・法律分野において、自民党内で、理論武装及び与野党を超えた交渉・調整の要として縦横無尽に国会内外を飛び回る重鎮二人の引退が、今後の憲法論議に影響を与えないわけがない。今後は、中谷元氏、船田元氏、格上げされた憲法改正推進本部の事務局長根本氏、上川前法務大臣らが中心になると思われるが、官邸にもにらみをきかせながら、どこまで理性的な論議の場を創出できるか、手腕が問われるところである。
一番危惧されるのが、安倍総理周辺の男尊女卑や、単発の押しつけ憲法論に染まった誤った「自主独立論」等々の、偏狭かつ狭猥な憲法観がぐぐっと表舞台に出てくることである。
自民党に改憲をリードさせることの危うさ、脆さを理解してほしい。
我々一人一人に求められるのは、そこで繰り広げられる改憲論が、憲法改革の通底したテーマとして普遍的でリベラルな価値にコミットしているのか、や、日本独自の「個人」観や良質な自主独立を根底にすえた中長期的な国家ビジョンという視点から厳しく吟味することである。
そして、今回の選挙では、党の公約にも具体的な改憲項目まで掲げられているのだから、我々の投票によって、国会による改憲の発議(憲法96条)の中身へのお墨付きを与えうるという極めて重要な選挙である。
我々一人一人の憲法観を投票行動にも結び付け、私たちが私たち自身の人間像と憲法を語る社会に、私たちの力で引き戻さねばならないという意識を持ちたい。この国の「かたち(constitution)」を決める選挙である。