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笹幸恵
2017.8.15 14:01

内部から腐る、平和

本日、日本武道館で行われた

戦没者追悼式に参列してまいりました。

 

安倍首相は、式辞でこう述べました。

 

「・・・戦後、わが国は、一貫して、戦争を憎み、

平和を重んずる国として、ただひたすらに、

歩んでまいりました・・・」

 

アメリカに追従して「戦争できる国」にした張本人が、

「ただひたすらに・・・」なんて、どの口で言うかね。

 

戦争を憎み、平和を重んずる。

 

あまりに空虚な言葉に思えてなりません。

 
平和とは何か。

劇作家であり保守の論客でもある福田恆存は、

平和とは、「ただ戦争をしてゐないといふだけの事」と

言いました。

勇気や自己犠牲のように、戦争状態にあったほうが

生むのに都合が好い価値があっても、戦争自体を

価値と見做すわけにはいかない。

平和もそれと同じである、と。

 

「尤も日本の平和思想の弱点は、平和状態であつたほうが

生むのに都合の好い価値といふ事についてすら、一顧の考慮をも

払はなかつた事にあります。言ふまでもなく、

平和は単なる事実や手段を示す消極的な意味ではなく、

それ自身直ちに価値や目的と成り得る積極的な意味として

通用してしまつたからです」

 (『【福田恆存語録】日本への遺言』より抜粋)

 

また、日本の代表的な詩人である茨木のり子には、

こんな詩があります。

 

「内部からくさる桃」

 

単調なくらしに耐えること

雨だれのように単調な……

 

恋人どうしのキスを

こころして成熟させること

一生を賭けても食べ飽きない

おいしい南の果物のように

 

禿鷹の闘争心を見えないものに挑むこと

つねにつねにしりもちをつきながら


ひとびとは

怒りの火薬をしめらせてはならない

まことに自己の名において立つ日のために


ひとびとは盗まなければならない

恒星と恒星の間に光る友情の秘伝を


ひとびとは探索しなければならない

山師のように 執拗に


<埋没されてあるもの>を

ひとりにだけふさわしく用意された

<生の意味>を


それらはたぶん

おそろしいものを含んでいるだろう

酩酊の銃を取るよりはるかに!


耐えきれず人は攫(つか)む

贋金(にせがね)をつかむように

むなしく流通するものを攫む

内部からいつも腐ってくる桃、平和


日々に失格し

日々に脱落する悪たれによって

世界は

壊滅の夢にさらされてやまない。
◇  ◇  ◇
 

 

民主主義とか平和だとか、日本人はそれを

何となく良いイメージで捉えている。

つまり、その事自体に価値を持たせている。

けれども今、それらを一度疑ってかからなければならない。

それこそが「戦後72年」を経過した日本の課題ではないか。

そうでなければ、内部から腐っていく。

 

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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