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高森明勅
2017.3.6 22:00

退位の要件に「天皇のご意思」は欠かせない

皇室典範本則の改正に反対する者らの最大の論拠は何か。

恒久的な退位の要件を定めることは困難で、
特に“天皇のご意思”
を要件とすることは、憲法の
「国政に関する権能を有しない」(
第4条)との規定に抵触する、
というもの。

果たしてそうか。

まず、
天皇がご自身のご意思によって何らかの行為を
なさること自体が、
国政権能禁止に抵触する、という誤解がある。

だが、そうではない。

天皇の行為は(1)国事行為、(2)公的行為、(3)その他の行為
に分類される。

これらの中、国事行為以外は原則、全て天皇のご意思に基づく。

取り分け(2)は文字通り「公的」性格の行為。

にも拘らず、それが天皇ご本人のご意思に基づいてなされても、
そのこと自体で直ちに憲法に抵触したりはしない。

行為そのものが政治的意味を持たなければ良いだけの話。

従って、「退位する」という行為が政治的意味を持つか否かが、
問われる。

天皇が行う上記3種類の行為は、
いずれも政治的意味を持たない
国事行為は法的には内閣の意思に基づく)
ことを限界付けられている。

よって、元々政治的意味を持たない行為を行う
主体である天皇の地位にある
方が交代しても、
それは当たり前なが
ら、何ら政治的意味を持たないと言うべきだ。

だから、「退位する」ことは国政権能には当たらない。

ならば、それに天皇のご意思が介在しても、
憲法に抵触することはない。

或いは、退位の意思を示すこと“自体”が政治的意味を持つ、
との意見があるかも知れない。

しかし、それは行為の帰結を遡らせ、
恣意的に起点である天皇の意思に織り込んで「政治的」
評価するもので、妥当な議論の立て方ではない。

上述の通り、天皇のご意思に基づく退位は、
それ自体では政治的意味を持たない。

この事実こそが重要だ。

しかも、私らが提案しているルールでは、
天皇のご意思“だけ”
では退位は行えない。

皇室会議の議決によって最終的に決定することになる
(従って、
責任も皇室会議にある)。

この点からも、国政権能禁止に抵触することはない。

そもそも、退位の要件の1つに「天皇のご意思」を
入れるべきなのは何故か。

言う迄もなく、天皇のご意思に反する退位(=強制退位)

行われてはならないからだ。

政府・与党も、まさか強制退位が行われても良いとは、
考えていないはずだ。

それは、天皇という地位の尊厳を汚し、
その地位にある方の人格を冒涜する暴挙だ。

憲法上「国民統合の象徴」であり、実際に幅広い国民から
敬愛されている天皇に、
決してそのような事があってはならない。

そうであれば、退位のプロセスに天皇のご意思を介在させる
他からの不当な干渉を排除する)ルールにするのが当然。

退位を法的に可能にし、新しい時代に「先例化」の道を開くなら、
将来に亘って、天皇のご意思に反する退位が行われない為の
恒久的なルール」を作る責任が、“今の”政治家と国民にある。

やはり「出口」は皇室典範本則の改正以外にない。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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