ゴー宣DOJO

BLOGブログ
高森明勅
2017.2.8 01:00

山口敬之氏の「無知と妄想」

安倍官邸に近いとされるジャーナリストの山口敬之氏が、
SAPIO』で驚くべき牽強付会の珍説を開陳している。

民進党がご譲位を巡り、
皇室典範改正という正論を掲げる背景には、
韓国ファクターという疑念」があると。

今回の件に関する民進党の取り組みの実情を、
些かでも知っている者には、
ただ嘲笑うしかない妄想ぶり。

この人物は「生前退位」という言葉についても、
甚だしい無知と妄想を自ら晒している
(『
文藝春秋SPECIAL皇室と日本人の運命』所収)。

譲位とは『皇位を譲る』という政治的行為であり、
憲法に違反する可能性が極めて高いというのが政府の見解だった」

「匿名を条件に断言した関係者の説明はこうだ。
…『譲位』
という行為を『退位』と『皇位継承者の即位』に分割し、
陛下のご意向はあくまで『存命中に皇位から降りる』という事であり、
自己完結した個人的行為である事を強調するために『生前退位』という
言葉が『発明』された」

唖然、呆然。
言葉を失う出鱈目さ。

もし山口氏がプロの「ジャーナリスト」なら、
まず「関係者」
とやらの発言の真偽を検証してから、
文字にすべきではないか。

当たり前だが。

私が何度も指摘して来たように、「生前退位」という言葉は、
今の皇室典範が制定される際に、
法制局(当時)が作成した
「皇室典範案に関する想定問答」(
昭和21年)で既に使われていた。

その後も、宮澤俊義のコンメンタールをはじめ、
憲法の注釈書、
教科書などには普通に使われ続けて来た。

従って、今回“初めて”この言葉が「発明」された、
なんぞと証言する人物がもしいたら、
その人が喋る内容は一切、
信用してはいけない。

そもそも「譲位」なら憲法上アウトで、
「生前退位」ならセーフなんて子供騙しが、
皇位継承という国家的な重大事で、通用するはずがあるまい。

皇室典範さえ改正すれば、退位(譲位)
は今の憲法の枠内で
可能との見解は、
これまで政府が国会で繰り返し答弁して来ている
昭和53年3月16日の参議院予算委員会での
真田秀夫内閣法制局
長官の答弁ほか)。

「国政に関する権能を有しない」(第4条)
天皇の地位を後継者に“譲る”ことが何故「政治的行為」になるのか。

それが政治的行為ではあり得ないという前提があるからこそ、
政府は一貫して憲法改正を不要として来たのだ。

山口氏は先の証言(?)を鵜呑みにして、
この言葉を“発明”
したのは誰か(!)を探ろうとしている。

「政府の『譲位は(憲法上)難しい』という結論を受けた先に
『生前退位』
という言葉を編み出したのであれば、
その主体は自ずと絞られてくるのではないか」と。

この辺りの記述は、正直に言って笑いを堪えるのに苦労する。

彼はその正体を「皇族ないしその周辺」とか
皇室並びに宮内庁幹部」(『SAPIO』)
見ようとしているようだ。

“豊かな”想像力ならぬ妄想力と言うべきか。

誰か山口氏にジャーナリストの“イロハ”を教えてやってくれ。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

次回の開催予定

INFORMATIONお知らせ