ゴー宣DOJO

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高森明勅
2016.12.25 01:00

内閣の助言と承認

12月22日、BS11の番組のゲストとして、
50分ほどの枠の中で、天皇陛下のご公務を中心に話をした。

ご譲位を巡る動きも、ここが分かっていないと、理解を誤る。

その点で、番組制作サイドの着眼は良い。

番組終了後、キャスターやスタッフらも「初めて知った」と、
興奮気味だったようだ。

また延長線上のテーマで出演して欲しいとのこと。

今度は「皇室典範の改正か、特例法か」という論点に
もっと切り込みたい。

帰りのハイヤーの中で神奈川新聞の電話取材に応じた。

記事をチェックしたいので拙宅にファックスを送ってくれ、

帰宅したら確認するからと(アナログ人間の本領を発揮して)
依頼。

すると、(目が点になったらしい僅かな沈黙があり)時間の制約で
メールで対応したいとの返事だった。

「なら、やむを得ないのでそのまま使って下さい。
あなたを信用しますから。
但しもし私が喋った内容から外れたり、
著しい間違いがあった場合は、
もう二度と取材を受けません(笑)
」と言って電話を切る。

23日、天皇誕生日。

心中、陛下のお誕生日を謹んで寿ぎつつ、新幹線で大阪へ。

車内から長男にメールして
「今日の参賀者の人数に注目してくれ。
発表があったら連絡を頼む」と依頼しておいた。

陛下の8月8日のお言葉を受けて、
例年以上に多くの国民が
皇居に詰めかけるはず。

読売テレビに入ると『FLASH』編集部からファックス(!)
が届いていた。

2日前に「天皇と日本人」という企画の取材に応じたもの。

要領よくまとめてある。

番組の打ち合わせ後、隙間を利用してメールで僅かな訂正の指示。

収録では、“娯楽”的色彩の番組への対応の難しさを感じる。

司会が知識のないレギュラー出演者にも公平に発言の機会を与えよ
うと
するのも、温かく見守る必要がある。

議論の中で、憲法学者なのに、天皇の公的行為にも
「内閣の助言と承認」
が必要と錯覚している人がいて、些か驚いた。

即座に反論したが、念のために国会での内閣法制局の答弁を掲げて
おく。

公的行為につきましては、これは憲法で言う国事行為でございません
から、
そういう意味では、憲法に定める内閣の助言と承認というものは
あり得ない、
こういうことをまず第1に申し上げられると思います。
天皇の御意思というものが実質的にそこに働くということを申し上
ているわけでございます」
(昭和50年3月14日、
衆議院内閣委員会での角田礼次郎内閣
法制
局第1部長の答弁)

「天皇の公的行為の場合には…内閣の助言と承認は必要ではない。
また、
あくまで天皇の御意思をもととして行われるべきもの」
平成2年5月17日、衆議院予算委員会での工藤敦夫内閣法制局
長官の答弁)

内閣の助言と承認というのは単なるレトリックではない。

助言と承認に対して天皇の拒否権は認められない
昭和38年6月24日、衆議院文教委員会での関道雄内閣法制局
第4部長の答弁)。

具体的には、
例えば天皇の国事行為の1つである内閣総理大臣の任命
については
、国会での投票結果を受けて、次のような書類が天皇の元に
届けられる。

日本国憲法第6条第1項により〇〇を内閣総理大臣に任命するに
ついて右謹んで裁可を仰ぎます 
年 月 日内閣総理大臣 氏名」
内閣の助言と承認というのは、
実際上はこういう形式で示される。

それに対して、天皇ご自身の
御意思というものが実質的にそこに働く」余地は皆無だ。

内閣が同意し、その責任を負うという点では、公的行為も同様。

しかし、そこに陛下ご自身の「御意思」
が介在し得るか否かについて
は、甚だしい相違がある。

公的行為にまで内閣の助言と承認が必要と錯覚していたら、
陛下の御意思は全て否定されることになる。

保守系の代表的な憲法学者が、こんな初歩的な事柄について、
全く間違った認識を持っていたとは。

不安になる。

新大阪駅に向かうハイヤーの中で『FLASH』
編集部から
確認の電話を受け、追加取材も。

新幹線に乗ると長男からメール。

参賀者数は平成になって最多だった」と。

やはり。

近年は、陛下のご高齢に配慮してお出ましを3回に減らしている。

それでもこの結果。

日本人も捨てたもんじゃない。

普通の国民の感覚は(保守系論客と違って!)至ってまとも。

お言葉には、
前日の新潟県糸魚川市の大火にもわざわざ
言及しておられた。

陛下らしい細やかで機敏なお心配り。

忝ない。

ところが安部政権は、畏れ多くも陛下を“人質
”に取るような形で、
お気持ちにも憲法の規定にも反する、
特例法で一代限りのご譲位を
強行しようとしている。

許しがたい。

何とか押し返さねば。

神奈川新聞の記事は一ヵ所だけ些細な訂正を指示した。

でも短時間にうまくまとめていた。

また取材に応じよう。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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