妻:あなた、ホテルに一緒に入っていくこの女は誰、あなた浮気していたのね
夫:それはな、おまえの妻としての俺ではなくて、会社の部長としての俺だ、だから、浮気にはあたらないよ
妻:何言ってるのよ、どういうこと、答えなさいよ
夫:今ここにはおまえの夫としているから、部長としてしたことについては、ここでは答える義務がないよ
今国会で、安倍首相は、憲法改正について質問されても、「行政府の長としてこの場にきているので、改憲草案には答えられない」「行政府として提出したものでないものには答えられない」などと言って、自民党憲法改正草案及び憲法改正についての答弁を拒否し続けています。
しかし、これは三つの理由でおかしい
【1.法的なおかしさ】
1.日本国憲法は、99条で「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 」と規定し、公権力担当者の憲法尊重擁護義務が規定されています。
2.次に、憲法前文には、この憲法は(立憲主義、国民主権、基本的人権・・・等の)普遍的原理に基づくものであり、この普遍的原理に反する「一切の憲法を…排除する」とうたっています。これは見落としがちですが、ものすごい重みをもった規定です。我々が理解している「違憲立法審査権」は、憲法に反する一切の国家行為を無効にします(憲法98条1項)。しかし、日本国憲法は、さらに進んで、憲法に反する「法律」だけではなく、憲法の普遍的原理に反する一切の「憲法」も排除するのです。
上の命題二つを併せ考えると、”日本国憲法が奉ずる普遍的原理に反する一切の憲法を排除する憲法を「尊重」し「擁護する義務」”が公権力担当者にはあります。
3.そうすると、改正提案として提出されている改憲案が普遍的原理との抵触があるのかどうか含めて見解を示す責務が、公務員のボスたる内閣総理大臣には憲法上あります。安倍総理は、「行政府の長」だからという理由で答弁を差し控えていますが、「行政府の長」だからこそ!答弁する責務が、憲法上存在するのです。(このあたりは駒村慶大教授の各論稿に詳しい)
※今回問題にしているのが、一政党の作成した「草案」である(国会に提出された憲法改正原案ではない)点は、この責務を負わない理由になりえますが、最大与党の改正提案であることは、一定の責務を根拠づけるのではないでしょうか。少なくとも、「我が任期中に改憲を実現したい」と述べた内閣総理大臣と、改憲を党是とする与党の総裁が同一人物であり、その人間が負う答弁の責務は一定程度あると考えるべきでしょう(他の誰もが出した改憲提案についての答弁責務とは比重、アクセントが違う)。
【2.今までの答弁との齟齬というおかしさ】
高村副総裁は、平成28年10月5日付の記者団への発言で、内閣は、憲法改正について統一見解を示す立場にないから見解を述べる「権能がない」と言っていましたが、これは間違いです。
大体、行政府(内閣)からの提案でなければコメントする権能がないなら、議員立法についても、コメントできないはずです(安倍総理は、議員立法についても、今臨時国会で、民進党提出法案について答弁をされていますが、これはいったいいかなる法的根拠に基づいて答弁をされているのでしょうか)。
しかし、安倍首相は、今までは自民党改正草案の国防軍や、96条改正について何度も国会で「内閣総理大臣として」言及しています。権能がないならば越権行為です。(このあたりは、10月12日の山尾志桜里議員も的確に指摘していました。)
たとえば・・・
【平成27年8月4日参院平安特】
○内閣総理大臣(安倍晋三君) これは、悪い影響というふうに申し上げましたのは、つまり、先ほど申し上げましたように、自分たちの手で憲法を作ることができると、こういう精神を取り戻す必要があると、こう申し上げたわけでございます。新しい時代を切り開いていくためには、その精神を切り開いていく、つまり、不磨の大典として指一本触れることができないというこの精神を変えていく必要があるだろうと、こう述べているところでございます
【平成25年2月26日:参院予算委員会】
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 自由民主党の憲法改正草案、これは昨年の四月二十八日に決定をしたものでありますが、その中において、自衛隊を国防軍として位置付けることにしております。
自衛隊は、国内では軍隊とは呼ばれていない、軍隊ではないという位置付けでありますが、国際法上は軍隊として扱われているわけであります。私たちは、このような矛盾を実態に合わせて解消することが必要であると、こう考えております。もとより、シビリアンコントロールの鉄則を変えるつもりはもちろんございませんし、憲法の平和主義や戦争の放棄を変えるつもりも全くないわけであります。
他方、憲法の改正については党派ごとに異なる意見がございますので、まずは、多くの党派が主張している憲法九十六条の改正から取り組んでいきたいと、こう考えております。
・・・上記の安倍総理の答弁は、非常に自由に憲法が不磨の大典ではなく、自民党改正草案における「国防軍」や96条改正について答弁されています。仮に「権限がない」のであれば、越権行為です。
【3.まっとうな改憲論議を誤導するおかしさ】
とにかく、私はこれが改憲の議論を進める好機だとで「何なら改憲しやすいか」などという姿勢はやめて、横綱相撲で、9条や統治改革についての改憲議論をしていただきたいのです。改憲提案が適切になされた場合は、民進党を先頭とした野党も、「安倍総理のもとでも改憲はNO」などと言わず、議論にがっぷりよつで組まれんことを強く望みます。
などと、縷々書いては来ましたが、要は、改憲を掲げ、権限があるのであれば、堂々と答弁すればよい、という違和感が根源にあります。口出しするのは「適切でない」などという価値判断は、改憲を掲げた人間としてはあまりに分裂的です。
自民党総裁としても内閣総理大臣としても、もちろん私人としても安倍首相の改憲についての話が聞けないなら、一体我々はどこで総理の話を聞けるのでしょうか。
そしてまた、我々は、総理が改憲について述べたくらいで、改憲についての議論が「適切」でなくなるくらい、ひ弱な言論フォーラムの中に生息しているのでしょうか。そんなことを言わせないくらい、そんなことが非現実なくらい、逞しい言論フォーラムを形成していくことが、我々個人個人の使命であり、今までの政治的思想的投網から抜け出し、未来志向の憲法改正論議を成立させる前提条件ではないでしょうか。
冒頭の浮気男への違和感を覚えた人は、是非これにご賛同ください。
全国の男性の皆さま、冒頭のやりとりじゃ逃げ切れないぜ