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高森明勅
2016.6.5 04:30

『学問のすすめ』の辛辣さ

これまで福澤諭吉の『学問のすすめ』ほど広く読まれた本は
珍しいだろう。

何しろ、総人口が3千500万人ほどで、識字率もまだ半数に
満たなかった明治時代(
初編の刊行が明治5年。全編の合本の刊行は
明治13年)に、
累計340万部(プラス海賊版多数)の売れ行き。

識字率100%の今の人口規模なら2千万部の超ベストセラーという
事になる。

驚異的な数字だ。

まさに「重版出来!」の連続だったはず。

しかし今日、
その題名すら知らない人はさすがに殆どいないだろうが、
冒頭の「
天は人の上に…」以外、その中身を丁寧に読んだ人はどの位
いるだろうか。

かつて小泉信三氏は、同書は「既にその使命を果たした」

評価していたのを自ら撤回し、以下のように断定した。

「(同書は)日本人の最も痛切なる現実の必要に応じた、また読んで
最も面白い本になつた。
その使命はまだ果たされてゐない」
(アテネ文庫『福澤諭吉』
昭和23年刊)と。

そこで「最も痛切なる現実の必要に応じた」と思える箇所から、
いくつか引用しよう。

日本とても西洋諸国とても同じ天地の間にありて、同じ日輪に
照らされ、同じ月を眺め、海を共にし、空気を共にし、
情合い相
同じき人民
なれば、ここに余るものは彼に渡し、彼に余るものは
我に取り、
互いに恥ずることもなく誇ることもなく、互いに便利を
達し互いにその幸いを祈り、
天理人道に従いて互いの交わりを結び、
理のためにはアフリカの黒奴(こくど)にも恐れ入り、道のためには
イギリス・アメリカの軍艦をも恐れず、
国の恥辱とありては日本国中の
人民一人も残らず命を棄(す)
てて国の威光を落とさざるこそ、
一国の自由独立と申すべきなり」

「西洋の諺(ことわざ)に『愚民の上に苛(から)き政府あり』
と…。
こは政府の苛きにあらず、愚民の自ら招く災いなり。
愚民の上に苛き
政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。
ゆえに今わが
日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり」

「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、
人に依頼する者は必ず人を
恐る、
人を恐るる者は必ず人にへつらうものなり。常に人を恐れ人に
へつらう者はしだいにこれに慣れ、
その面の皮鉄のごときになりて、
恥ずべきを恥じず、
論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を
屈するのみ。
いわゆる『習い性となる』とはこのことにて、
慣れたることは容易に改め難きものなり」

いかがだろうか。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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