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笹幸恵
2016.2.24 15:27

いらない町

先日、中島みゆきの劇場版「夜会」を観ました。

「夜会」といえば、中島みゆきが

脚本、作詞作曲、歌、主演まで務める舞台で、

チケットは一般ピーポーには入手困難。

でも二年前の「夜会VOL.18ー橋の下のアルカディア」が

映画館で上映されるというので、いそいそとお出かけ。

 

幼い頃から両親が中島みゆきを聴いていたので、

いつの間にか身体の一部分に沁みついている感じです。

カラオケでも、もっぱらみゆき様です。

下手だけどいいの。

周囲がハイテンションで盛り上がっているときも、

「糸」とか「タクシードライバー」とかを歌っては

がっつり盛り下げています。

彼女の歌にある「オンナのドロドロ感」は、

私には皆無ですが、どこかで共感しているのかもしれない。

いえ、憧れているのではないかとすら自分で思います。

 

さて、その夜会。

ところどころストーリー展開が読めず、

最後に○○(ネタバレになるので伏せます)が

出てきたのにはタマげましたが、

歌は本当に素晴らしく、脳髄に響き渡りました。

 

その中に「いらない町」という歌があります。

 

ある日決まりが伝えられた。

その町はうずめてしまうことになった。

この町は捨てられたのだ。

早くほかへ移れ

 

・・・というニュアンスの歌です。

 

この舞台そのものは、タイトルのとおり

設定が「橋の下」であり、地下なのですが、

私はこの歌を聴いてふと原発事故で

失われた福島の町を思い出しました。

そして堀辺師範がおっしゃっていた「社稷」という言葉も。

 

あちこちの原発が、何もなかったかのように

再稼働しているけれど、そのニュースを見るたびに

腹が立って腹が立って仕方がない。

人智を超えたものがあることを知ろうとしない

傲慢な愚か者めーーー!

 

日本人はあの未曽有の原発事故も、

あっという間に忘れてしまえるのだろうか。

自分には関係ないと、再び無関心を決め込んでいるのだろうか。

汚染された町に住んでいた人々は、今もなお

日常に戻ることができていないというのに。
私たちは、その町に住んでいた彼らの過去ばかりでなく、
その町の未来さえも奪ってしまったというのに。

 

大好きなみゆき様を観てウカれておりましたが、

振り返ってみれば、来月で東日本大震災から5年です。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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